ー2章ー 11話 「小さな石刃と大きな約束」

木の棒を剣に見立てて練習した後、例の石刃を握ると小さいナイフ程の大きさの石刃の刃が、僅かに伸びた。


以前僕の成長に合わせて変化するとは言っていたが、まさか本当に変化するなんて……。


オルセアはその事を分かっていて頷いているが、まだ練習を始めて二時間程度しか経っていない。

そんな短時間で僅かでも変化するものなのだろうか?


よく分からないが、いずれ成長するのだから、細かい事は気にしないでおこう。

僕は自分を納得させていると、


「その石刃はな、この剣の対となる物なんだ。つまり元々二つで一つだったってことだ」


驚愕の事実だった。

剣聖であるオルセアが愛用している剣と同じ代物って事!?


それならオルセアが扱った方がよっぽど有用なのではないか?

託したいという思いはわかるけど、僕はまだ三歳だし剣に関してもド素人もいいところだ。


もう少しまともに扱えるようになってからでも良かったと思うのだが。


オルセアは「石刃を貸してみなさい」と手を差し出した。

言われるがまま石刃をオルセアに渡すと、急激にその形が変化し、一振りの立派な剣に姿を変えた。


元々の持ち主であるオルセアが扱おうとすれば、そうなるのは当然だ。

だが、オルセアの愛剣とは形状が明らかに違っていた。


……どういう事なのだろう。


対になるのなら同じ形状でなければバランスが悪いし、扱いにくいはずだ。

疑問に思っていると、オルセアは握っていた左腕を僕に見せてこう言った。


「この傷は昔戦いで負ったものだ……コイツのせいで上手く力が発揮できなくなってな」


腕に刻まれた大きな傷跡。

それは赤ちゃんの時に初めて見た印象的なものだった。


まじまじと見る事はなかったそれは、塞がってはいるものの、あまりに強烈な一撃だったのだろうと思わせる傷だった。


この負傷が原因で同じ剣にならないと言う事のようだ。


「アレン、いつかこの剣もお前に託す。だから強くなれ……お前ならできる!」


オルセアは将来の事を見据え、僕に愛剣を託すと言った。

何を伝えたかったのか、何となく分かった気がした。


世界を知っている英雄が剣を託すという意味と重圧……それは三歳児にはまだ早すぎる責任だ。

だが、誓いを立てるなら早いに越したことはない。


恐らくオルセアは剣が必要となる未来を予期しているからこそ、伝えたかったのだろう。

そう思った僕は少し震えていた。


何が敵として立ちはだかり、いつその牙を剥いてくるのか。


いずれ訪れるその日のために、僕はこの日から剣の練習を本格的に始める事を決めた。


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