ー2章ー 2話 「初期想像錬成、発動」
森の中にこんな巨大なイノシシがいたなんて……。
目測で大人の倍はある巨大のイノシシを、三歳児である僕がどうにかできる相手ではない。
ここは人里離れた森のど真ん中。
当然そういった生物がいたとしても不思議はない。
しかしこれまでそんな動物に出会った事は一度もなかった。
その慢心が招いた状況である事は否定の仕様がない。
最悪な事は重なるもので、近くにオルセアは疎か大人が誰一人いない。
このままではイノシシの餌食になってしまう。
イノシシからすれば、僕をどうにかする事なんて赤子の手をひねる程に簡単な事だろう。
僕に力があれば……。
無いものを強請ってみても意味がないのは分かっている。
でも、こんな所で死ぬなんてゴメンだ!
どうする………どうすればいい……!?
冷静に考えようとするが、焦りが先行して打開策が全く思いつかない。
僕の頭の中で有り得ないイメージばかりが浮かんでくる。
イノシシがあと一歩進んだら落とし穴に落ちるとか、急に両サイトの木がイノシシ目掛けて暴れ出すとか、頑丈な木の檻が突然空から降ってくるとか……。
何の解決策にもならないイメージが無数に湧いてくる。
すると、あのAIのような声が頭に響いた。
「年齢制限、一部解除。初期想像錬成を発動します」
え……錬成?
すると空から巨大な木製の檻が降ってきて、イノシシの頭上目掛けて真っ直ぐに向かっていく。
次の瞬間、ズサッっと大きな音と共に檻がイノシシを拘束した。
イノシシは必死に出ようと突進を繰り返すが、檻はビクともしない。
興奮したイノシシは暫く暴れたが、力尽きたのかハァハァと息を荒らげて座り込んでしまった。
た、助かった……。
僕は九死に一生を得た。
未だ腰は抜け、身体の震えが止まらない。
心臓はバクバクと脈を打ち、放心状態になっていた。
そして、何故か涙が溢れていた。
少し錯乱気味になっていた僕は無意識に「うわああぁぁぁ…!」と叫んでいた。
こういう状況は現世でもこの世界でも初めての体験だ。
人間ってこういう状況になると、こうなるのかという事が初めて分かった。
しかし、赤ちゃんの時に使えなかった錬成が発動したのには驚いた。
まさかこのタイミングで使えるようになるなんて……。
お陰で命は助かったけど、この檻の事……どう説明すればいいんだ?
そんな心配を冷静に考えているが、身体の震えは一向に治まらない。
とにかくイノシシはもう何もできないんだ。
暫くこのままでいよう。
そうこうしていると、僕の叫び声を聞いたオルセアと大工さんたちが一斉に駆けつけた。
「どうした、アレン!?無事なのか!」
オルセアはいつもの優しい顔つきからは想像できないくらいに険しく、例えるなら「戦士」の顔つきになっていた。
手には赤ちゃんの時に見た、あの剣が握られていた。
そうだった……この人は剣聖と呼ばれた英雄だったんだよな。
平和過ぎて忘れかけていたが、この人は国を救ったスゴい人だったんだ。
その戦士の形相を平時に見ていたら恐怖を感じただろうけど、今は凄くホッとしている。
オルセアと大工さんは檻に閉じ込められているイノシシを発見して、かなり驚いていた。
「コイツは……森を荒らしていたヤツですよ、オルセア様!」
大工さんは職業柄森の木を切っていたので、森が荒らされている事に気がつき、オルセアと相談していたようだ。
「そうか……コイツが。だが、なぜ檻に囚われているんだ?」
ですよねー、そうなりますよねー、当然。
マズい、どうしよう……言い訳を考えていなかった。
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