あとがき
まずは、読了ありがとうございました。
おそらく読んでいて気になる点や拙い表現も多々あったかとは思いますが、読んでいただいた方が少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
まだ読んでいない方は、特に犯人やトリックのネタバレなどは含みませんのでそのままあとがきから読んでいただいても結構です。
さて、この小説は大学時代に所属した文芸部の部誌に寄稿した作品がもとになっています。
当時の僕は今にして振り返ると、それはそれはひどい小説ばかりを書いていました。
これはなにも自虐趣味で言っているわけではなく、実際、大学の先輩方からも内容の質の低さについて苦言を呈されるほどでした。
そんな中で、この小説は比較的マシな評価をいただけたものだったと記憶しています。そういったこともあって、僕にとってもそれなりに思い入れのある作品になります。
その一方で、この小説は当時の自分の「限界」を思い知らされた作品でもありました。
ただ自信過剰だった当時の僕にはそのことに気づけるほど自分を客観視できてはおらず、なかなかの傑作が書けたぞと無邪気にも自惚れていたものでした。
そういうわけで、この小説の出来に満足した僕は、応募の締切が差し迫っていた東京創元社のミステリーズ!新人賞に急いで応募しました。
その後、幸いにも一次選考を通過することができ、自信に満ち溢れていた僕はいよいよ有頂天になります。
が、蓋を開けてみれば通過できたのは一次選考のみで、続く二次選考通過の一覧にはこの小説のタイトルは影も形もありませんでした。
当時の僕には、この小説にいったい何が足りなかったのかわかりませんでした。
急いで応募したために推敲があまりできていなかったからではないか?
規定枚数内におさめるためにいくつかのシーンを削ったのが良くなかったのではないか?
などなど、当時はいろいろと考えました。
しかし今になって考えると、この小説の最大の欠点が痛いほどによくわかります。
今回改めて読み返してみると、まあ一応ミステリの形にはなっています。
事件全体の構図は割とありがちなものでしたが、今読んでもトリックや推理にも大筋での破綻はないように思います。
(実は細かいミスはいくつかあったのですが、今回気づいたものは修正しています)
ただ、言ってしまえばそれだけなのです。
この小説を応募したのはミステリの新人賞なのですから、そもそもミステリとして成立しているというのは当たり前の大前提でしょう。
そもそもミステリ小説にもなっていないような作品は、一次選考の時点ではじかれてしまうに違いありません。その程度のことはほかの通過作すべてが達成できているはずなのです。
それを踏まえたうえで、二次選考以降の通過に値するような斬新さや魅力が果たしてこの作品にあるかというと、残念ながらそうした訴求力には乏しいと言わざるを得ません。
落選は当然のことだったと今では納得しています。
とはいえ、前述したように作者本人としては思い入れのある小説であることは事実でしたし、今読み返してそこまで捨てたものでもないだろうという気持ちもありましたので、今回ある種の供養のつもりでカクヨムに投稿しました。
前述した規定枚数におさめるために削除したシーンなどは今回復活させましたし、今の自分が読んでわかりづらいと思ったところは大幅に加筆修正して化粧直しを施しました。
したがって当時の自分が書いたものよりは多少は読みやすくなったのではないかと思います。
今読むと犯人の動機など、ちょっとどうかと思う面もありますが(今の自分の感覚だと、これを犯人の動機とするのは時代に逆行していますし、少し不適切な表現ではないかとも思います)そのあたりは当時のままにしております。
最近は、大学時代のようにせっせと新人賞に応募することもすっかりご無沙汰になってしまいました。
名のある賞を受賞するには少なくともこの小説よりも出来のいい小説を書かなくてはいけないわけですが、創作意欲自体が衰えつつあるのを感じて危機感を覚えています。
今回過去の自分の小説を読み返してみて、「我ながらひどい文章だ」と呆れる部分も多々ありましたが、一方でこの時のガムシャラなひたむきさを懐かしく思う気持ちもあります。
またこのときの熱情を取り戻せるよう精進していきたいと思う次第です。
子供がいない かんにょ @kannyo0628
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