災禍級魔術師はサイコロを砕く ~正史ルートだとバッドエンド直行のゲーム世界に転生したから特殊エンディングを目指していたら、ネームドキャラたちに執着されてヤバいことになった件~
竜胆マサタカ
??:Jack
──何故だ。
「もぉ、いぃ、かぁいー……?」
「まぁだ、でぇす、かぁー……?」
奴に俺の位置など、分かるハズがない。
「もぉ、いぃ、かぁいー……?」
なのに何故、ゆっくりと、けれど一切の迷い無く、こっちに近付いて来ているんだ。
「まぁだ、でぇす、かぁー……?」
居る。もうすぐ側に、俺が背中を預けている
そもそも、こんな人の手が何十年も入ってない森深くまでどうやって追ってきたんだ。
「もぉ、いぃ、かぁいー……?」
来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。
──いや待て、落ち着け、冷静になれジャック・リンカー。
相手は所詮、生粋のインドア派だ。いくら俺が
適当に転がした後、平野の陣まで下がればいい。
……できることならあいつらとも、あまり顔を合わせたくないけど──
「みぃ」
「つ」
「け」
「たあぁ」
悲鳴を上げなかったのは断じて肝が太いからではなく、単に俺は驚くと声が詰まるタイプってだけだ。
「どうして隠れるのですかぁ? 恥ずかしがらなくてもいいのにぃ」
木陰に注ぐ僅かな陽光すら照り返すほど
透けるような
「ふふ、ふふふっ、ひひっ」
下手に動けば首ごとねじ切られそうな万力。
こんな細腕のどこに、これほどの力が。
「どこへ逃げたって無駄ですよぉ? 貴方が近くに居ると、傷が
かつて俺が撃ち抜いた右目を覆う、細やかな
つがいで咲くクリファの花模様。花嫁衣装によく使われる装飾。
「ひひっ……さあ、
国主すら許しがなければ入れない禁足地を住まいにした覚えは無い。
「もう離さない、逃がさない……誰の目にも触れさせない、誰の手にも触れさせない……」
誰か助けて。このままだと監禁ルートまっしぐら。
まだ本編すら始まってないのに、俺の人生が終わってしまう。
…………。
ああ、カミサマ。そんなものが存在するのかは知らないが、もし存在するならどうしてあの日、前世の記憶など引き戻してくれやがったのか。
「貴方の眼差しも、鼓動も、吐息も、ささやきも……すべてすべて、私のもの……」
いっそ何も思い出さないまま
近頃、ふとそんなことを考えてしまう自分が心のどこかに居て、まったく嫌になる。
「溶けて、混ざって、腐って、骨になるまで、ずっと……ずぅっと一緒……」
嫌にもなる。
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