しめ縄飾りとその効用について。

しめ縄飾りとその効用について。

　荷物持ちとして、親と買い物に来ることがある。

　雪の踏み固められた白い駐車場を歩きながら、手元のエコバックの中身に目をやる。

　スーパーで正月のしめ縄飾りを買うと、いよいよ年末だなという心持になる。

　しめ縄飾り。丸っこくなった縄にみかん？　柑橘系の果物やら扇子やら葉っぱやらが付属したアレだ。

　さて、俺はこのしめ縄飾りの購入に思うところがある。不服に感じる点がある。

　ご存じのとおりこのしめ縄飾りは結構いい値段がする。今年は一番大きい奴を買って2千円近くした。

　さらに、このせっかく購入したしめ縄は2週間程度玄関に飾り、翌年の1月中には焼いて捨ててしまう。

　……マジで無駄じゃね？

　俺の母はなかなかの倹約家だ。たかがハムの1円や2円の違いで「他のスーパーの方が安い」などと言う。移動にかかるガソリン代の勘定もせずに。

　そんな節約原理主義過激派な母が、このしめ縄飾りには2千円を支払う。

　母はこの縄に一体どのような価値を見出しているのだろう。

　こんなのに2千円出すくらいなら弁当のウインナーを鶏肉じゃなくて豚肉のヤツにしてくれ。

　正月に叔父が家に来た。

　俺はお年玉をせびりつつ、たまたま目についたしめ縄飾りについて、先日感じた不満などを話した。無理やり話題を作った形だ。

「これはなぁ、年神様をお迎えするための目印なんだよ」

　と叔父は言った。

　どうも、元旦に各人の家屋を訪れてハッピーを振りまいていく、年神様なる和製サンタクロースのような存在がいるらしい。

　その和製サンタが迷子にならず自分の家に来てくれるよう、このしめ縄飾りは付けるのだそうだ。

　また、このみかん（みかんではなく橙という名前の果実らしい）だったり扇子だったりの付属物たちにもそれぞれ意味が込められているのだとか。

　へぇー、と思った。

　また、俺はその年神様とやらもサンタクロースも見たことねぇけどな、とも思った。

　やっぱり無駄な出費じゃねえかな。しめ縄飾り。

　この後、おじさんから貰ったお年玉のポチ袋の中を改めると、去年よりも5千円多く入っていた。俺に講釈を垂れて気がよくなったのかもしれない。

　1月14日に近所の神社でしめ縄飾りやお守りなどの焼却処分パーティーがあった。

　ダイオキシンだの環境破壊だのと口うるさい現代の潮流に真っ向から喧嘩を売っているなかなかハジけた催しだ。

　俺の地元ではこのパーティーを『どんと焼き』と呼ぶのだが、地域によっては『どんど焼き』とか『さいと焼き』とか呼ぶらしい。

　このどんと焼きでしめ縄飾りを燃やすのには、家に来ていた年神様を天界までお見送りするという意味があるという。叔父の講釈によればだが。

　……年神様あんた、そんなに長く内に滞在してたのか。宿泊費請求していいレベルだろ。

　俺は荷物持ちとして母に同行していた。どんと焼きに持ってきたのはしめ縄飾りの他にお守りが２，3個程度なのだが、帰りに買物をするということで駆り出された。

　絶賛冬休みの真っただ中で暇している俺に、断る口実はなかった。

　境内の氷で滑らないよう、よちよち歩きで母の後ろを付いていると、後方からつんつんと背中を突かれた。びくっとして振り向く。

「よっ」

　後ろにいたのはどちゃくそ可愛い女。同じクラスの佐藤さんだ。

「お、おう」

　急に自己主張の激しくなった心音を押し込みながら、なるべく平静を装って。返事を返す。

　どうやら向こうも親と一緒に来ているみたいだ。なんか、親と一緒の時って同級生と話しにくいと思うのは俺だけだろうか。

　お互い軽く挨拶だけして親についていく。

　佐藤さん私服あんな雰囲気なのか。

　長期休みの期間に、いつもと違う印象の佐藤さんを見れてなんだか得した気分だ。

　神社の境内の一角で、天にも届くような火柱が煌煌と燃えている。

　その火柱の一番近くに立っている和装の男性に、母がしめ縄飾りとお守りを渡す。

　それらを母から受け取った係員の男性が、炎の中へと入れた。

　勢いよく燃え盛る朱と橙の中に、僅かな黒煙が混じる。

　俺は冬の冷えた外気を胸いっぱいに吸い込んだ。嗅ぐと感じ取れる、きなくさい煙の粒子。

　こうして2，3週間前まで2千円だったものは、高く広がる青空を微かに汚す煙となったわけだ。

　やっぱりムダ、だよなぁ？