第3話 クソ虫の俺が異世界転生しても人間失格になる事からは逃れられなかった件
「どうだ?」
フルメイルのおっさんと弓使いのおっさんに挟まれて、
稽古直後だったので猛烈なむさくるしさの中封筒をあけると、
俺よりも先に二人が「ああーっ」とため息をつく。
俺は実はいまだにフェイルセイフの入隊試験に合格していなかった。
職業欄に雑貨屋手伝いといまだに書いている。
というか雑貨屋のおばちゃんことアンジェリカさんは俺に雑貨屋を継がせる気でいるらしい始末。
むしろ俺もそれでもいいかなと思うのだが。
俺は手の中に鉄パイプを召喚しそれを繰りながら眺める。
これの力を封じ続けるためには邪神を倒し続けないといけないんだよなぁ。
異世界でも資格社会だなんて。そして相変わらず資格が取れず社会に溶け込めない自分のダメさ加減にげんなりする。
それでも自分と一緒に生活してくれるマリィや、めげずに稽古に付き合ってくれて、
フェイルセイフの仕事に同行させてくれるおっさん二人の存在と、
まるで家族みたいにいつも傍にいてくれるマリィの存在が救いになっていた。
仕事で向かった先で懐かしそうな顔をするマリィ。
そこは300年前の文明の遺跡都市。
仮面をつけた男に遭遇すると病気になって死ぬという。
仮面をつけた男をころせば疫病は止まるという。
しかしようやく見つけた仮面をつけた男に実体はなく、捕まえた仲間が疫病に感染してしまう。
人が疫病に対して抱く恐怖が病を存在せしめている。
その都市の住民たちは互いに互いをころしあっているのだ。
実は都市の住民は全て他所の都市で過去に殺人を犯した者たちで、
都市の管理者による完璧な隠蔽によって守られていたが、
罪を犯した自分が罰から逃れられるはずがないという恐れがつきまとっていて、
それが被害妄想を産んで一つの偶像を生み出すに至った。
都市の管理者はいつしかその偶像の体現者として精神を塗り替えられ、邪神として存在していた。
俺はいくつかの窮地を乗り切ると都市の管理者を打ち倒すことに成功する。
俺は街での窮地を乗り切った時に起きた現象から過去に倒した邪神の力を自分が使えるようになっていることに気づく。
そして俺は実は異世界転生した時点で本物が死んでいて、俺だった誰かの人格を取り込んだ邪神が擬態しているのが今の俺であるという状況だと、遺跡都市の文献と俺の中から聞こえ始めた何かの声から理解する。
邪神を生み出した深淵の混沌と呼ばれる存在が俺の正体。
混沌の中に邪神を放り込む事で邪神が混沌に飲み込まれるのを拒むのを利用して封印を継続している。
キルブレイドも実は聖剣じゃない。
物理的な器となっているのは混沌を封じたマリィの聖剣。
マリィは300年前の最強の聖剣使いだった。
邪神は俺に愉快そうに支配権を渡さないかと誘う。
彼が警戒していたのはマリィの存在、彼女がその気になればいつでも再び完全に封印されてしまう。
俺が彼女と親しくなればなるほど彼女を始末する隙ができる。
「そろそろ頃合いだ」それはまるで寝かせておいた酒でも楽しみにしているような声色だった。
俺は自分の正体を言えず、マリィの好意を受け取る資格すらない自分に苦しみながら、
それでも彼女の笑顔を曇らせたくない一心で笑い返す。
ああ、俺はやはりどうしようもなくダメなのだ。
どれだけ考えても答えは出ない、ただ時ばかり過ぎ去っていく。
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