四話 世界の崩壊
ルミネが大胆に飛び込んでくる、速さは中々だが動きが大雑把で直線的すぎる。
ルミネから繰り出される刺突や斬撃、特に刺突の速度には目を見張るものがあるが、動きが単純で簡単に予想が出来る。
今まで何千もの手合わせをしてきたが勝つどころか、一度も攻撃が当てられない化け物の様に強い祖父が繰り出す剣術と比べればルミネの剣術は子供が戯れで木の棒で殴りかかってきているに等しい。
簡単に半身をずらせば簡単に躱せる、何より致命的なのは振り終わりには必ず僅かな間があることだ、その間にルミネの懐に潜り込むとルミネが目を見開いて慌てて距離を取ろうとするがその動きは精彩を欠いていた。
木刀を持つ手を掴み足払いをかけて地面に転がし首筋に木刀を突き付ける。
打ち合うまでもなく、いともあっけなく終わり、ルミネは呆然としていた。
「これで一本だ。速さは悪くないが動きが単純だ。攻撃と攻撃の間に間があるし足さばきも緩急がない」
そうルミネに言って俺を見上げるルミネに手を差し出し、とても白く綺麗で柔らかそうな手を掴み引き上げる。掌は剣を嗜む人特有のしっかりとした感触を感じる。
「結構強いほうだと思っていたのに、こんな簡単に負けるなんて………」
「使い慣れてない木刀を使っていたから実力を出し切れてなかったと思うが?木刀の重心や重さに慣れていなかったからしょうがないさ、気に病むなよ」
「私は実力が足りなかったから負けたの…明らかに使う道具で埋まる差じゃなかった………ねぇ私はジンに魔術を教えるからジンは私に剣術教えてよ、嫌なら全然断っていいからね」
「その申し出は凄くありがたいけど……ルミネに教えるの俺でいいのか?俺の祖父であれば俺よりも強いし教えるのがし上手いから祖父に教わった方がいいと思う」
ルミネの申し出は願ったり叶ったりだが、俺が他人に何かを教えた経験など殆どない。他人に教えるのは祖父のほうが上手いし俺の何十倍も強い祖父に教わった方が上達も速いだろう。
「あ…ん……ジンがいいの。ジンに教えて欲しいの」
何故かルミネが顔を赤らめてしどろもどろになりながら言う。
そのルミネの挙動不審に首を傾げる。
祖父よりも俺に教わりたいなんて、一体何故だろうか…
「ルミネがそう言うなら引き受けるよ」
そう言うとルミネが輝いていると錯覚するほどの眩しい笑顔を向けてくる。
不意に心臓が一瞬高鳴る。
何故が視線が自然とあってしまうがお互い黙り込んでしまい気まずくも何処か生暖かい空気が流れる。
「ジン、ルミネさん。お前さん達を邪魔するつもりはないが、大変な事になったぞ」
急に耳に入った祖父の声に体が固まりルミネから視線を外す。
音もなく何時の間にか近くにいる祖父にはいつまで経っても驚いてしまう。
それよりも何だろうか?祖父が『大変』なんて単語を発するとは一体何事なのだろうか?人類が対処できる事であれば良いが………
「大変って?何があったの?」
「原因は不明だが全人工衛星が観測できなくなりインターネットが完全に麻痺したとニュース速報で報道されてる」
「は?」
祖父の余りにも予想外な言葉に思わず呆然としてしまう人工衛星もインターネットも現代では無くてはならない重要なものである。
インフラは崩壊し、あらゆる経済活動が全て狂う事は火を見るよりも明らかである、 現代社会の基盤であるそれらが音沙汰もなく完全に麻痺などすればその先に待ち受けるのは想像も絶する混乱と果てしない混沌であろう。
祖父が見た放送は恐らく衛星を介さない地上デジタル放送なのだろう。
部屋でスマホがネットに繋がらなかった事が頭に浮かぶ。
だからスマホを幾ら弄ってもネットに繋がらなかったのか………
「ジンどうしたの?」
「あ……大丈夫だからさ、安心して」
状況を把握しきれていないルミネが不安そうに見つめてくるルミネを安心させるように声をかける。
少し表情が和らいだみたいだが、何か重大な事が起こった事は察しているようだ。
「安心しろ仁、何かあっても様々な備えがある、状況が好転するまで大人しく生活すればいいさ」
「まぁ、そうだな」
祖父が落ち着かせるように言い、ルミネに向けて優しげな笑みを浮かべる。
「ルミネさん、いつまでも此処に居てもいいからな。不束な孫だが良い奴だ、仲良くしてもらえれば嬉しい。それと何かあれば遠慮なく言いなさい」
「何から何まで本当にありがとうございます、お世話になりっぱなしなのは嫌なので私にも出来ることがあれば手伝います」
「おう、じゃあ何か任せるぞ」
ルミネの殊勝な態度に深く感心し感嘆の息を吐く。
いつも纏わりついて相手にするのが面倒くさい俺の悪友とは大違いだ。
「それと…ジンとはこれからずっと仲良くしたいと思っているので!」
ルミネが祖父に顔を真っ赤にして恥ずかしがりながらも、はっきりと祖父にそう言うルミネに身体の芯が熱くなり心が浮く様な感覚に陥る。
今まで感じた事がない感覚に戸惑う。
「おや?おやおや?何時もの飄々とした態度は何処へ?流石に仁でも別嬪さんにこの様に言われて照れたのか?」
「…別に」
祖父が楽しげに揶揄ってくる。
祖父に気付かれたのが癪で否定するが歯切れの悪さが自分でもはっきりと分かる。
ルミネから向けられる視線を感じて目を合わせると、ルミネが更に顔を真っ赤にして慌てて顔を逸らす。
気まずく、こそばゆい雰囲に耐え祖父を睨むと祖父がが満足げに笑いかけてくる。
「後は若いお二人だけでどうぞ」
祖父がほくそ笑みながら生暖かい目を向けながら道場を後にする。
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