三話 魔術と魔法
昼食を食べた後に祖父に許可を取って離れになる道場で魔術を学ぶことになった。
男であれば誰しもが一度はこういった手合いのものに憧れるだろう、食事の時には余りにも落ち着きがなくて祖父に咎められた程だ。
「先ずは、ジンは魔術を使うには魂を知覚する必要があるの」
「魂?どうやって知覚するのか?」
「教えてあげる」
そうルミネが言うと俺の胸に手を当てる。
服越しにじんわりとした心地よい温もりと共に何か熱いものが胸から入り込んでいるのを感じる、不思議な感覚だが決して不快ではない。やがて己の胸の中心で何かが強く蠢くのを感じる、感じたことのない感触に思わず慄く。
「感じた?これが魂..え?...ジンの魂、既に何かが刻まれてる......」
俺の胸に手を置いていたルミネが驚いたように呟く。
魂に何か刻まれていると言われたが一体どういうこと何だろう?
「感じたけど、魂に刻まれてるってどういうことなのか?」
「それを説明するには、先ず魔術と魔法の違いを教えるね」
「違うのか?」
魔術と魔法どっちも同じだと思うが違いがあるらしい。
「違うよ、先ず魔術は術式を構築して行使するけど、魔法は術式を構築しなくても使えるの。魔術は自分の丹田に蓄えられてる魔力をマナやエーテル、大抵はマナに変換して術式を構築してマナを消費して様々な効果を得ることが出来るんだけどね、魔法は術式を構築する必要がないの。魔法は自分の魂に刻み込まれた術式にマナを流すだけで行使出来るの。後天的、先天的があるけど、どっちも発動速度も得られる規模も効果も段違い、一般的には魔術師よりも魔法師の方が優れてると言われてるんだよ。ちなみに私は一級魔法師、炎術系の術式が刻まれてるんだ。魔法師ってだけで階級が上がりやすくて優遇されるんだよ」
得意げに話すルミネの言葉の一つ一つを頭の中で咀嚼して何とか嚥下して頷く。付いて行けずに何もかもが理解できない訳では無いようでひとまず安心する。
俺の魂には術式というものが刻まれているのが分かる。魔法は使えそうだ。
「じゃあ、魔力の知覚とマナの練り方教えるね。魂を知覚したら簡単だよ。目を閉じて丹田を強く意識してみて」
ルミネにそう言われて目を閉じて臍のあたりを意識する。やがて段々と何かを感じる。時間が経つにつれて臍から何かが体の隅々を常に循環して流れているのを感じる。まるで血液のようだった。
「そして丹田にある魔力を練ってマナに変換するんだけど、こればかりは自分の感覚で何とかしないといけないんだけど、そこまで難しくないよ、ジンは多分紅焔竜を撃破した時、無意識の内に魔法を行使したと思うからその時の感覚を思い出して」
魔力からマナに変換....ドラゴンを撃破した時の感覚が蘇る、強大な力の奔流と全能感、常人を超えた力を出せたのは無意識の内に魔法を使ったからなのか。
その時の感覚を思い出す....暫くするとあの時の様な高揚感と共に熱い液体の様なものが胸に込み上げてくる。
その瞬間体に行き場のない力の奔流が行き渡る。
「凄い!ジン凄い!ジンに刻まれているのは身体強化系なんだ、魔術による身体強化よりも遥かに凄いよ、身体強化の効果も持続力も魔術によるものと比べたら雲泥の差だよ」
全男児の憧れである魔法を意図的に行使できて思わず興奮する。
「凄いな.....」
そう呟き目を輝かせて見つめてくるルミネに向き直る。そのままルミネの瞳を真正面から見つめるとルミネが恥ずかしそうに頬を赤らめて目を逸らす。
「そんな見つめられると恥ずかしいよ……………」
「…ルミネ凄くありがとう…本当に感謝している」
そう真正面から言うとルミネがもっと顔を赤らめて俺の胸を軽く叩いてくる。
「ジンって本当に……もう」
胸を叩いてくるが全く痛くもないので只の照れ隠しなのだろう、やっぱりルミネはこういった言葉に慣れていないのだろうか。
「そういえばジンって剣術使えるの?」
道場の壁に掛けられている様々な木刀や打刀、太刀などに興味深そうに眺めながらそう聞いてくる。
「ああ、そうだな剣術以外にも体術や槍術、様々な暗器なども一通り仕込まれたな。剣術が一番出来る」
「そうなんだ、私も剣術結構出来る方だよ。どう?一回手合わせお願いしていい」
「いいぞ、壁にかかっている好きな木刀を使え」
確かルミネはレイピアの様な洋風な剣を携えていた、異国....ましては異世界の剣術がどのようなものか気になる。
ルミネが壁から反りがない木刀を手にする。こちらも適当な木刀を手に取りルミネと正面から向かい合う。
「じゃあ、魔術や魔法の使用は禁止ね」
「わかった」
ルミネにそう答えて下段に構えるとルミネが切先をこちらに突き出し右足が前で、左足が後ろの右半身の構えをとる。
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