越えていけ

装具ツール使用、麗馬鎧甲セレナーデ!」


 セレッタの身体を蒼き水が包み込み、それが弾けると共に蒼白い鎧を纏う麗美なる姿となった水馬ケルピーセレッタが姿を現す。


 それにはシュナイダーも目を少し開いて感心の声を漏らしながら素早く接近し、刃の如く凍てつく九本の尾で断ち切り行く。しかし手応えの無さや切りつけた時に冷気が伝播してないのを察してすぐにその場から離れ、セレッタが放つ激流から逃れた。


(エルフの持つ創造の力か……それを自覚して使えるようになった、か)


(あれは容易く破れるようなものではないぞ、どうする)


 冷静に分析するクロスに呆れ気味にシュナイダーが問うと、問題ないと返されセレッタが放つ水の剣を氷の剣で貫き相殺する。


(一見すればエルフの力、創造の力で引き出されたものは魔獣を含め厄介なのは間違いない。だが、あくまでもリスナー能力と規則に従って存在し得る……!)


 カードを引き抜くクロスの意思を察してシュナイダーが足を止め、周囲に氷柱を生やしてセレッタを迎え撃つ姿勢をとった。

 何かあるというのはエルクリッドも察しカード入れに手をかけ、セレッタも迂闊に近づく事はせず蹄から水を噴き出すとすぐさま津波の如く制圧攻撃を仕掛ける。


 瞬間、クロスはシュナイダーに纏わせていた久遠の氷鎧をカードへ戻し、入れ替わるように引き抜いていたカードに魔力を込めて解き放つ。


「ホーム展開、シールフィールド。俺は久遠の氷鎧を選び、同じ記号を持つカードを打ち消す」


 舞台の色が紫紺色へと染まると共にセレッタの纏う麗馬鎧甲セレナーデに亀裂が走り、エルクリッドがカードを抜いた時には砕け散った後だった。

 それには戦いを見守るノヴァ達も目を見開き、刹那にシュナイダーが津波へ飛び込み己の冷気で氷塊とし粉砕するとそのままセレッタに向かう。


「スペル発動ゴーストップチェック!」


 動くものと止まっているものの位置を入れ替えるゴーストップチェックの発動によりセレッタとシュナイダーの位置が変わる、が、シュナイダーは振り返る事なく氷纏う尾を振ってセレッタが放つ水の矢を凍らせながら弾き飛ばし、己の支配下とし撃ち返す。


 紙一重でセレッタは避けるが素早く反転し疾走るシュナイダーが目に入り、刹那に左前脚を切り飛ばされ傷口を凍結させられた。


 その瞬間、セレッタは切り飛ばされた足から水を噴き出させてシュナイダーに浴びせ、身に纏う冷気でそれが一気に凍りついてしまう。

 すかさずセレッタが片足を失いながらも向きを変えてシュナイダー目掛けて強烈な後ろ蹴りを放ち、何とか避けるもののシュナイダーの尾が全て砕かれ千切られた。


「小僧……少しはやるではないか」


「いつまでも遅れを取るわけにはいきません、今日こそ超えさせていただきますよ!」


 言葉を交わした刹那に振り返る両者が上体をあげて真正面からぶつかり合う。セレッタの前脚はシュナイダーの胸に深く跡をつける程に踏み込まれ、シュナイダーの牙はセレッタの首を噛み穿く。

 そのまま組み合った状態で静まり返るが、ギロリとセレッタとシュナイダーの目が相手を捉え直しお互いに攻撃を続行し、そして同時に倒れ込む。


 既に致命傷を負いカードへ戻ろうとする中でもセレッタとシュナイダーは共に立ち上がらんとし、エルクリッドとクロスはそれぞれ手元に戻ってきたアセスに労いの声をかけながらカードをしまう。


「ありがとセレッタ、あとは何とかするよ」


「シュナイダーよくやった、休んでろ」


 シールフィールドのカードを解除してクロスが手元へと戻し、エルクリッドは魔力の消耗で感じる疲労と呼吸の乱れを感じ額の汗を手で拭って落ち着かせる。

 見知らぬカードに対して冷静かつ的確に対応してきた事は脅威そのものだが、何とか勝利に近づけているのも確かだ。同時にだからこそ最後の相手の厳しさと、クロスが決して取り乱す事もなければ高揚もなく落ち着いている事へ警戒を強め、エルクリッドは最後のアセスの宿るカードを抜く。


(ヒレイ、いよいよ……あなたの出番)


(セレッタも、スパーダも、ダインも、ローレライも、よくやってくれた。後は、勝つだけだ……!)


 全力を尽くして相手を倒しヒレイへ繋いだアセス達の思いがエルクリッドの闘志を奮い立たせる。ヒレイもまた同じように闘志を滾らせカードを赤く光らせた。


 次が最後の相手、最大の試練、そんな状況で弟子が凛と佇む様子にクロスも静かにカードを抜いてそこに描かれる外骨格を持つ偉大なるドラゴンを見つめ、魔力を注ぎながら静かにその絵柄を変えていく。


「残りのアセスは、知っての通りカイだけだ。だが、真化した状態のこいつをお前に見せるのは初めてになるな」


「あたしの方も、それは同じ……でも挑む者として、あたしからお披露目させてもらいますっ!」


 真化とはアセスがリスナーとの経験を経て位を上げた存在、絆という通常の生き方では得られぬ力を得たもの。それもまた可能性と思うと、クロスに言い放つエルクリッドの言葉はより快活さを増し、そして強く輝く星のように掲げられるヒレイのカードは煌めきを増す。


「赤き流星よ、願いを明日へ繋ぐ希となって光輝け! 行くよ、冀現星竜きげんせいりゅうヒレイ!」


 赤き光が天へと登り、白く輝く星のように煌めくと共に白の鱗に赤く光る外骨格を纏うヒレイが姿を現し天に吼える。


 夜空の星々を従えるかのような雄々しさと、エルクリッドの真っ直ぐな瞳のように明日を照らすような眩さにはクロスもかつていた友を思い返し、そして笑みを小さく浮かべた。


「それがお前達の掴んだ可能性ならば、俺達も全力で応えてやる! 天竜将の名を賜りし古の竜よ、折り重ねた想いと共に翼広げ未来を導け! 怜黒真竜れいこくしんりゅうカイ!」


 黄金に輝く光沢が月光を照り返しながら漆黒の鱗を持つドラゴンを映し出し、月を背負うかの如く真なる姿を現す。

 怜黒真竜れいこくしんりゅうカイ、バエルのマーズに匹敵する戦慄を走らせながらも誇り高きまなざしにはエルクリッドとヒレイは気圧されそうになるが、前へと進み恐れを振り払う。


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