16.脱出
広めの路地裏に出る。
そうだ、ここだ。
ここの扉から僕らは出てきたんだ。
しかし待望の扉の近くには出会いたくない人間もいた。
この世界に来て初めにあったスーツの男だ。
「犯人は現場に戻ってくるって言うのは本当なんだなぁ。」
ニヤニヤ顔で銃を僕に向け撃つ。
嫌にゆっくり見えて放たれた弾がよく見える。銃からは紐のようなものがついていてその先には2本の針が見えている。
全身が痙攣を起こし体が言うことを聞かない。
そのまま僕が後ろに倒れ込むとルカがすぐに駆け寄り針を抜く。
「大丈夫!?立てる?」
ぼんやりとした意識の中、上を見るとスーツ姿の男がすぐそばに立っている。
「捕まえたぞ、お前らはきっと消される。俺らの世界を好きにさせてたまるか。」
そう言って拳を握りルカに殴りかかろうとしている。
「ル…カ…。」
そう呟くがルカは心配そうに僕を見つめ続けている。
危ない、ルカ。後ろだ。
ルカが殴られ後ろに吹き飛ばされる。
ああ、ルカ…。
僕がついていながら何もできない。
僕は守られ続けているのにルカを守ってやることができない。
嫌だ…ルカを…ルカを傷つける奴は許さない。
ぼんやりしていた意識がだんだんとはっきりして戻ってくる。
男を止めないと。
そう思いフラフラしながらも立ち上がり、男の方を向くと男が首を掻きむしりひっくり返っている。
喉元にはホースが蛇のように巻きつきキツく締め上げている。
ルカがやったのかと見るが彼女は気を失っている。
もしかすると無意識のうちの防衛本能でやったのかもしれない。
だがそれはまずい。
もし殺してしまったら、殺せてしまえば僕らは本当にドリームイーターと同じになってしまう。
すぐさま男に近づき巻き付いているホースを力一杯引っ張る。
初めは引き剥がすのは無理かと思われたが次第に緩んでいき、不意に引き剥がされ後ろに転んでしまう。
男は顔を真っ青にしているがどうやら生きているらしい。
ひとまず安心だ。
ルカの様子を見るが殴られた頬が痛々しく赤くなっている。
僕はまだ痺れて上手く力が入らない手でルカの上体を起こしゆすってみる。
そうするとゆっくりルカが目を開けて頬が痛むのか顔をしかめる。
「大丈夫?ルカ。」
すぐさま体を起こし周りをキョロキョロする。
そして倒れたスーツ姿の男を見つけるとポカンとする。
「これ…うちがやったん?」
ルカがこの男を殺そうと首を絞めていたのならドリームイーターと変わらない。
もしそんなことを知ってしまったらショックでは済まないかもしれない。
「違うよ、僕がカーッとなって我を忘れてホースを首に回してしがみついたんだ。殺してはいないよ。気を失っているだけ。」
そう聞くとルカは僕の顔をじっと見つめて頬の傷跡をさすると
「助けてくれたんやな?ありがとう。」
チクリと胸が痛む。
実際のところは僕は何もしていない。
強いて僕ができたことを言うならルカを人殺しにはしなかったことくらいだ。
頬を触るルカの手に僕の手を重ね後ろめたさを感じ取られないようにそっと話す。
「今のうちに逃げよう。早くしないとさっきの男たちがまたくるかもしれない。」
ルカは頷き僕の頬から手を離して扉へと向かっていく。
僕は倒れた時に落としてしまった仗に近づき様子を見る。
ホースが解けまたほとんど裸になっているが、幸い擦り傷はあっても新しく大きな怪我はしてないようだ。
「ふっ、よかったな仗。新しいケガは増えてないよ。まあ、傷だらけでどれが新しい傷かわかったもんじゃないけどな。」
そう言って笑いかける。
一緒に電気を食らってそのショックで復活した可能性もあるかと思って冗談を言ってみたが相変わらず目を開けているだけ呼吸をしているだけ生きているだけの状態だ。
憎まれ口を叩けば叩き返し2人で一緒に大笑いする。
そんな日常はもう帰って来ないんだと思うとまた泣きそうになる。
だがダメだ。
僕は強くならなきゃいけない。
ルカに守られてるだけじゃなく僕も守る。
ルカが人を殺してしまわないようにそんな時はさっきみたいに僕が止めればいい。
世界は救えないかもしれないけど僕は僕のできることをやろう。
ルカが扉を開いて中を確認する。
どうやら晴の世界と繋がったままではないようだ。
まあ、もし繋がっていたらそこから追っ手が来ていたかもしれないし当たり前と言えば当たり前かもしれない。
扉を閉めてルカは集中している。
しかし、後ろから声がする。
「おい、ダン!大丈夫か!?」
ドリーマーの使いであるスーツ姿の男がダンと呼ばれるやつの元に駆けつける。
そして僕らの姿を見て睨みつけこちらに向かおうとする。
「まずい!ルカ!まだか!?」
「もういける!はよ来て!」
そう言うルカは扉に僕を引き寄せ庇うように僕の後ろにつく。
もしここを潜ってまた晴の世界に繋がっていたら…。
晴はきっと怒りに任せてデイブに僕を八つ裂きにさせるだろう。
ルカは大丈夫だ。利用されるかもしれないが殺されはしないはず。
ルカは僕が作ったイマジナリーフレンドだがドリームイーターになった今なら僕がいなくても存在できるはずだ。
この扉を開けるのが怖い。
それを察してルカは後ろから僕を抱えるように押して言う。
「ぐだぐだ考えたってしゃあない!今が吉日や!」
そう言って扉を開けて仗を背負った僕を押し込みながら一緒に入っていく。
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