15.暴力

僕らは来た道を引き返している。

今日ドリームランドに帰ってきてから走り続けている。

しかし、今はもしかするとこの逃走劇が終わるかもしれないと思うと今までより足取りが軽く感じられる。

とは言ってもお気楽ではいられない。

きた道を戻っているのだから追いかけているドリーマーの使いや住人なんかもいるかもしれない。

出くわさないように祈りながら走り続ける。

位置はバレている。

目的地がある分ドリーマーの側からするとルートが予測できる可能性もある。

だけどそんなこと言ってられない。

このままではいつかは捕まるんだ。

行動して死ぬか行動しないで死ぬかなら今の僕は行動したい。


路地を曲がったところで突然ルカが止まる。

僕は止まりきれずルカにぶつからないように壁に体をぶつけながらブレーキをかける。

仗の勢いを殺しきれずタックルされるような形になって肩が痛む。

「どうした?」

「あかん、見つかった。」

ルカの横から覗き込むとスーツ姿の男が歩いてきている。

さっき出会ったやつとは違う顔だがただのサラリーマンってことはないだろう。

案の定、内側の胸ポケットからルカの言っていたビリビリする銃を出す。

飛ばせるスタンガンみたいなものだろう。

「大人しくしろ。お前らに我々の世界は壊させない。ドリーマーのもとへ連行する。」

もう数メートルでこちらに辿り着いてしまう。

「うちにあの銃は効かへんから引き返して別のルートに行こ。」

そう呟くのを聞いて僕はすぐさま反転する。


すぐ後ろまで追いかけてきている。

パニックになりそうだ。

抱えている仗が煩わしい。

仗の重さをなくして羽織るようにおんぶする。

始めからこうして移動すればよかったんだ。

ルカはできる限りものを散らしながら邪魔をするように走っている。

そんなルカの邪魔にならないように息を切らさないよう想像しながら全力でダッシュする。


ルカは逃げながらもいく方向を指示してくれている。

もう少しなのか、まだ着かないのか。

そう言った気持ちはどんどん焦りを募らせる。

ドリーマーの使いにはルカを挟んでいる上そこそこ距離はまだあるみたいだが安心できない。

袋小路になればおしまいだ。

そこはルカを信用するしかない。


やはり追ってきていた人間に対して向かっていくのは良くなかったようだ。

住人たちだろうが男が3人目の前にいる。

「おい!あいつだろ!ドリームイーターだ!」

「捕まえたらドリーマーの側近になれんだろ?」

「いい暮らしさせてもらおうぜ。」

嫌いなタイプの人間だ。

ドリーマーは僕らを捕まえるためにそんな条件をつけたのだろうか?

だとすれば住人たちはみんな僕を捕まえようと躍起になっているのかもしれない。

思わず立ち止まる。

後ろから来ていたスーツ姿の男は住人の存在に気づくと銃をすぐに隠すようにスーツの裏に持っていく。

なるほど、もしかしたら使えるかもしれない。

ドリーマーはあくまでも暴力的なものを見せたくないのだ。

と言うことは住人がいる限り暴力的なことはできないはずだ。

「活路は前だ!ルカ!」

そう言って走り出す僕にルカは黙ってついてくる。

「おい!やべぇぞ!ドリームイーターが…!」

何かを言い切る前に正面の男を殴り飛ばし押しのける。

人をまともに殴ったのはすごく久しぶりだ。

小さい頃の喧嘩以来だ。

あの時は殴った感触が気持ち悪くてもうこんなことはしたくないと思った。

それは今でも変わらない。

だが、僕が生き残るためだ。

申し訳ないが僕の道を塞ぐなら無抵抗でも遠慮なく殴り飛ばさせてもらう。

ルカも参戦し通り抜けるのに邪魔な男に飛び蹴りをかまして押し通る。

もう1人はパニックになり壁に張り付いている。

後ろからスーツ姿の男が慌てて道を塞いでいた男たちに駆けつけようとするのが見える。

どうやら、自分たちも暴力的なものは見せてはいけないが受けさせることも禁止されていたようだ。


これはチャンスだ!

一気に扉まで走り抜ければ僕らは助かる。

そこでふと嫌なイメージが思い浮かぶ。

「ねえ、扉を潜ったら晴の世界に戻ってしまうってことはない?」

そう聞くとルカはしばらく考え込んで答える。

「しょーみな話、そこらへんはほんまにわからへん。そもそも自分の世界を作れるかどうかもわからへんからやってみるしかないと思う。」

ルカの言うとおりだ。

ぐだぐだまだ起こってもいないことを心配してもしょうがない。

現状のまま続けても晴の世界に行ったとしても僕を待ち受けてるのは破滅だ。

それならば賭けに出たっていいだろう。

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