第10話 OKAMACHIアルチザン物語

 場持たせのために、私は、彼も知っている店の事を書いた、妹の遊びの手紙を見せ

た。


 『OKAMACHIアルチザン物語』

 穏やかな冬の午後、私はお気に入りのケーキ屋へ大好きな抹茶ケーキを買いに行

った。

 普通、抹茶のケーキと偉そうにネーミングしてあっても抹茶の香りなど、その名前

程はしなくて、いつも騙されたような気分になるものだが、アルチザンの抹茶のケ

ーキは違う。全然違うのだ。

 細かくしたお茶の葉っぱがスポンジ生地に混ぜてあって、見るからに[お茶のケー

キ」という色をしている。抹茶の香も良く、程よくミルクの香も効いていて、とても

おいしい


  最初お店に入った時、すぐに目につかなかったので私以外にも、この抹茶ケーキ

のファンがいて、もう、売り切れてしまったのかと少し心配になり「抹茶のケーキ

はありますか?」とお店の人に聞いた。


 すると、その人は「はい、こちらに…」とショーケースの一番上の一番左を指

した。

 その位置は抹茶のケーキにとてもよく合っていた。

 私は、あーよかった。あったーと思いながら「一つ下さい」と言った。

 「袋でいいですか?」

 「はい、あの、何日位もちますか?」

 いつも、すぐに食べてしまうくせに、一応聞いてみた。

 「そうですねぇ、2日ぐらい…」

 「冷蔵庫の方がいいですか?」

「そうですねぇ、冬と云っても近頃は暖房で室内が暖かいですから、ご心配でした

ら冷蔵庫で出来るだけ早くお召し上り下さい」と店の人が言った。


 そう言われて私は思い出した。

 このケーキは一度切ってしまうと、すぐに堅くなってしまうのだった。

 でも、おいしいので、そんなことは許せてしまう。

 おつりをもらって私は店を出た。

 あー、今日は風もなく、そんなに寒くもない、よい天気だなーと、ちらりと空を

見上げ、私は改札口へ向った。

                      著者・池田抹茶子まっちゃこ

    

 読み終えた手紙をカウンターに置いて、「やっぱり姉妹だね、感性が似ているよ、

ホラ、ここなんて……「はい、あの、何日位もちますか?」 いつも、すぐに食べて

しまうくせに、一応聞いてみた。

 「冷蔵庫の方がいいですか?」……


 「この辺の気の遣い方なんて、そっくりだよ、何か会話しようと、無理に聞かなく

ても分かってる事聞いてる…」

 「そうかなぁ?」と私。


 しばらくの空間を置いて彼がポツリと言った。

 「今でもミルク、相変らず一生懸命に生きてるだろう、身体全部で、いろんな事に

体当りして、頑張って生きようとしてるんだろう」

 彼は私の事をミルクは呼んでいた。

 幼稚園の時や、小学校に入りたての頃、胸に付けた名札に平仮名で「いけだくる

み」と書いてあるのを、その当時の先生が、よく読み間違えて「くるみ」を逆から読んでしまって「いけだみるくちゃん」って、呼ばれたんだよ…って彼に話してから、

彼は私の事を『ミルク』と呼ぶようになっていた。

「・・・・・・・」

「ミルクも、何かしなくちゃと思ってるだろ、だからしんどいんだよ」

「ウン」

「何もするなよ、ボオ~ッとしてたらいい」と彼。

 彼は、昔から私に何もさせたくなくて、二人でボォーッとしていようと言う。


 それは、今の私には出来ない。

 「僕達、本当に我がままなところが似すぎてる」と彼。

 「ウン、そうね。一緒に居たいけど、そうなると生活出来ないと思うわ、だって生

活って大変でしょう、法事がどうのとか…そんなの二人で話したくないもの」

 「そうだ、二人とも逃げて、どうにかしてくれ!では、生活出来ないものな」

  二人とも、その辺の想いは同じだった。

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