幸せになる権利
教会を出て行ってしまったリュカだったが、彼は毎日夕方になると祈りを捧げにきた。風の噂で彼は祈りの時間になると仕事をほっぽり出し、教会の方向へひれ伏しているらしい。
信心深いのはいいことだ。だって彼と話をする機会が増えるのだもの……。
教会の前を掃除しているとヤニックが通りかかる。
「シスター・ジャネット、リュカは働き者な上親切で街の皆に大層好かれていますぜ。素性の知れぬ者と最初は警戒しましたが杞憂だったようです」
それを聞いて私は誇らしい気持ちになった──のだが……。
「今では娘の婿になってくれとあちこちから声がかかるそうです」
続いたそれに内心がっくりとする。
リュカは性格がいい上になかなかハンサムなのでそういう話がくるのは普通だ。それにこの街の娘と所帯を持つことはリュカ自身有利になることも多いだろう。
彼が誰を選ぶのかは分からないが、私なんて選択肢にも入らない。だって私はシスターだから……。
「ですがね、リュカは縁談を次々と断っているんですよ」
「え?」
ヤニックの言葉に思わず声を上げてしまう。
「何でも自分には不相応だからって。でも俺には分かる、あいつには心に決めた人がいるんでしょう。……ちょっとお耳を失礼します」
耳を貸して、ヤニックの潜められた声に集中する。
「あいつはシスター・ジャネットのことを好いているんでしょう。その証拠にリュカは貴女の話ばかりを楽しそうにしています。あいつが信心なのは貴女に助けられたからでしょうな」
言葉が、出なかった。ぽかんとしている間にヤニックは去って行ってしまった。
リュカが私のことを好き? それは本当だろう? 胸が高鳴り始めるが……例えそうだとしても私は結婚など出来ない。
それになにより、私には幸せになる権利などない。私だけ幸せになるだなんて、そんなの死んでしまった皆に申し訳ないじゃないか。
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