これが恋


 リュカは傷が癒えるまで教会で療養することになった。

 彼のお世話が私の仕事になったのだが、彼はなかなか心を開いてくれずいつも何かに怯えていた。

 しかし、時が過ぎて傷が治り体に肉がつき始めると彼はよく笑うようになり、教会の仕事を手伝ってくれた。

 未だにリュカの身に何があったのかは聞けていないし、彼自身語ってはくれない。しかし私は別にそれでいいと思う。私だって故郷の惨劇を口に出したくはないのだから。



 リュカが教会で療養を始めてから1ヶ月後、彼は顔の広いヤニックの紹介で靴屋で住み込み労働することが決まった。


「皆さん、大変お世話になりました」


 教会の前でリュカは神父様やシスター達に深々と頭を下げる。皆から激励の言葉をもらう彼のことを私は面白くない気持ちで見ていた。

 リュカが教会からいなくなる、それがとてもイライラする。


「シスターには特に良くして頂いて、このご恩は一生忘れません」


 私の手を握るリュカは男のくせに随分と可憐に笑う。この屈託ない笑顔が私は苦手だ、胸がざわついてしまうから。


「時折教会へお祈りにいらして下さいね。貴方の進む道に幸多からんことをお祈りします」


 笑顔でそう返したが、上手く笑えていなかったかもしれない。



 リュカが使っていた部屋へと入る。

 リュカのお世話は楽しかった。しみる塗り薬や苦い飲み薬に涙目になる彼は可愛かったし、私の料理を毎度絶賛して食べてくれたのは嬉しかったし、力仕事をしてくれる時はとても勇ましかった。

 だけどもうリュカはここにはいない……改めてそう認識した時、私は1ヶ月ぶりに失った家族や故郷を思い出す。あの時の喪失感とまではいかないが、リュカの不在は私にとって辛いものだ。


「ああ、これが恋なのね」


 ズキズキと痛む胸を押さえつける。

 リュカと一緒の間は悲しい気持ちも醜い復讐心も忘れられていた。それほど私は彼に夢中だった。

 苦手だなんてとんでもない、私は彼の笑顔が大好きでした。

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