崩壊した幸せ
街について3日目の朝早くからお産が始まった。
産婆さんと叔母さんを懸命に手伝い、無事に男の赤ちゃんを取り上げることが出来た。
「ロザリー、おめでとう」
赤ちゃんと一緒にベッドで仰向けになっているロザリーに祝福の言葉を送る。
「ありがとう、ジャネット。次は貴女の番かもね」
「え? 気が早いわ。相手だっていないのに……」
そんなことまだ考えてもいなかったが、意識すると照れくさくなってしまう。
もじもじとしていると、部屋に従兄弟のポールが入ってくる。
「ロザリー、よくやった! 頑張ったなぁ! ジャネットもありがとう!」
ポールはロザリーの額にキスをすると、次いで私の背中をバシバシと叩く。痛いけど、今回だけは我慢してあげる。
「あなた、私達の子どもを抱いてあげて下さい」
ロザリーに言われ、ポールはおっかなびっくり赤ちゃんを抱き上げる。そして嬉しさと愛おしさで顔をふにゃふにゃにさせた。
ポールにロザリー、そして赤ちゃん。皆がとても幸せそうで、いつか私も……と思わずにはいられなかった。
お産の後も叔母さんやロザリーの手伝いをして、1ヶ月程を叔父さんの家で過ごした。
季節は晩秋、雪が降ると道が悪くなってしまうので本格的な寒さが訪れる前に村へと戻ることになった。
ロジェとの約束を果たす為、私は沢山のお土産を買った。勿論他の家族や村の皆の分もある。
馬車で揺られながら皆に話したい沢山のことを頭の中で整理する。当然一番話したいことはポールとロザリーの赤ちゃんのことだ。そんな事を考えていると、周りの景色が見知ったものになってくる。
そろそろ村につく。わくわくしながら遠くに見える村に目をやるが……おかしい。何がおかしいのかは分からない、とにかく嫌な感じがする。
きっと気のせい、そうあってほしい。騒ぐ胸を押さえつけ、叔父さんに馬車の速度を上げてと頼んだ。
村は死んでいた。
家屋は壊され、焼かれ、朽ちている。
畑は荒らされ、家畜達の姿もない。
そして、村のあちこちに住人達の死体が転がっている。
私は呆然と変わり果てた故郷を眺めた。
「なんだこりゃ?! ひでぇ!」
叔父さんの声で我に返り、走り出す。
父さん、母さん、セレス、ロジェ! どうか無事でいてっ!!
生まれ育った家の扉を乱暴に開けると──そこには折り重なって死んでいる家族の姿があった。
「……うっ、あぁあぁあぁあぁ!!」
16歳の秋の終わり、私は一人きりになった。
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