第2話 窓辺②

 コン、コココン、コン。

規則正しい音が窓の方から聞こえる。

エリックは嬉しそうに顔を上げると、小走りで窓に近づき、開けた。

ベランダにはあの日のようにイーサンが座って待っていた。

規則正しいノックは二人で決めた合図だ。

正直、ベランダに現れるのなんてイーサンぐらいしか居ないので、

合図など無くともただ窓を叩けば、来たことは十分に分かるのだが二人だけの秘密の合図である、ということがエリックにとって何より重要だった。

何だか悪い事をしているようで、ワクワクするのだ。

イーサンはほとんど毎日のようにエリックの部屋のベランダに現れた。手にはいつも何かしらのお土産を持参して。

そのお土産は壊れかけのオモチャだったり、読んだことの無い擦り切れた絵本だったり、虫の抜け殻だったり、綺麗な小石だったりした。

いつも見た事の無い不思議なものを持って知らない世界の話をするイーサンは、どこへ行くにも使用人が一緒で自由の無いエリックにとって憧れの存在となる。

二人が共に遊べる時間はエリックの昼休憩の一時間という非常に短いものだったが、二人はどんどん距離を縮めていった。

「今日は結構早いな、昼飯ちゃんと食った?」

イーサンが言う。

「食べたよ、待たせるのは悪いと思って、」

エリックはベランダに出てカーテンと窓を閉めながら言う。

「そんな事言って、ホントは俺に早く会いたかったんだろ〜?」

緑の瞳の少年はからかうように言った。

「それもあるね、イーサンと過ごす時間が僕の一番好きなことだから、」

エリックは恥ずかしげも無く言ってのけた。

「っ、何だよ、面白みの無い奴」

イーサンは肩をすくめる。

エリックはイーサンと過ごすうちに沢山の初めてを経験した。

初めて人と砕けた口調で話した。

初めて人を呼び捨てにした。

初めて人をからかった。

初めて大笑いした。

初めて、友だちが出来た。

「今日はな、今まで持って来た中でも一番面白いもの持って来たんだ」

イーサンは気を取り直して言う。

「一番?」

バルコニーの主は興味深そうに首を傾げた。

イーサンがする話は勿論のこと、彼が持って来る物はどれもエリックにとって珍しく、

面白いものばかりだったのだ。

「うん、俺もこれ以上面白いものはまだ見つけてない、たぶん一生無理だな」

イーサンが自信満々で言った。

「へぇ、」

エリックは目を輝かせる。自分の知らない世界に生きる彼がこれ以上面白い物は無いと言うのだ、期待で胸が熱くなるのも仕方がない事だろう。

「いいぞ!」

勢いよく言うとベランダの向こうから何かが飛び出す。それはイーサンの横に華麗に着地した。

現れたのはイーサンと同じ歳ぐらいの赤毛の少年だった。

「早く呼べ」

少年は言葉に棘を含ませて言う。少年は薄汚れた格好をしており、頬にも泥が付いていた。

「ごめんって、」

イーサンは悪びれることなく言う。

「、、、」

エリックは目を点にして二人を見ていた。赤毛の少年の格好にしてもそうだが、何よりその見たことも無い髪色に驚いて、パチパチと瞬きする。

「エリック!俺が一番面白いと思ってるもの、というか、思ってる奴!」

イーサンは嬉々として言った。

「ロシュ」

赤毛の少年は呟く。

「あ、、えっと、エリック、です。よろしく」

エリックは戸惑いながら言った。

「何でそんな混乱してるんだ?」

緑の瞳がエリックの顔を覗き込む。

「いや、だって、ここ二階だよ?登って来るのはイーサンみたいにパイプを伝って来れば良いかもしれないけど、下からこんなに早く来られるわけ無いじゃないか」

エリックは自身の困惑を説明した。言葉にするともっと不思議で、首を捻る。

「あ、もしかして浮力のあるラピスを使ったの?いや、でも、人間が持ち上がる程のラピスって相当大きいよね、、それに、制御出来るのかな?」

そう言って今度は反対に首を傾げた。

「そんな高級そうなもの俺らが持ってる訳ないだろ。そんな難しい話じゃない、単にベランダの端に捕まってたんだ」

イーサンが指をさす。

「そっちの方がよっぽど難しいでしょ!それに捕まる様な大した窪みは無いはずだよ」

ブラウンの髪の少年は騙されないぞという風に言った。

「まぁな、俺だったら無理だけど、ロシュは簡単に出来るんだ。すげぇ運動神経いいから!」

緑の瞳の少年は赤毛の背中をバンバン叩きながら軽い調子で言う。

「簡単では無い。驚かせたいからって無茶なことさせるな、肉食わす約束忘れんなよ」

ロシュは顔をしかめながら淡々と言った。

「分かってるって、でも驚いた顔は面白かっただろ?」

緑の目をした少年は未だ呆けた表情のエリックを指さす。

「、、、ふ、まぁ」

少しの沈黙の後、赤毛の少年は思い出した様に笑った。

「ひどいなぁ、僕をおちょくるのそんなに楽しい?」

エリックは唇を尖らせて、少し拗ねたように言った。

「?、、僕?」

ロシュが首を傾げる。

「貴族の女は自分のこと僕って言うのか?初めて会った時のイーサンが言ってたやつと同じだ」

ロシュがエリックに尋ねる。

「?、いや、私って言うかな、」

エリックも首を傾げる。

「?じゃあ何で、?」

赤毛が眉を寄せ再度首を傾げると、イーサンは二人の顔を交互に見て笑いを堪えるように目を見開いた。

そして耐え切れなくなり吹き出す。

「ッブハ!、、ロシュ‼︎、、エリックは、お、おお、男だぞ!ハッハッハ‼︎」

イーサンは絞り出すようにそう言うと、腹を抱えて笑う。

エリックは、一瞬固まると、信じられないというように口をあんぐり開けた。

「⁇、、は?こんな顔した男いる訳ないだろ、」

赤毛はエリックを舐めるように見ながら言う。

「‼︎、、!、なっ、、ぼ、僕は男だ‼︎」

エリックは顔を真っ赤にして怒りを露わにした。

「女の子な訳無いだろう!とんだ侮辱だよ!信じられない!」

怒るエリック、未だ頭にハテナを浮かべるロシュ、笑い転げるイーサン。

ベランダはカオスを極めていた。





 「ホントに男なんだな、」

「だからさっきからそう言ってるだろう⁉︎」

エリックが苛立ちを隠さずぶつける。眉間に皺が寄りっぱなしだ。

あまりに笑うイーサンにもひと睨みきかせておいた。

「ごめん、」

赤毛の少年が小さく言いながら軽く頭を下げる。エリックは口をへの字に曲げて納得いかないという顔をしながらも、いいよと言った。

「ハーッ、ホント面白いなぁ、」

緑の瞳の少年は涙を拭いながらしみじみ言う。

「僕のこと話さずに連れて来たの?」

エリックが刺々しく尋ねた。

「いや、話してたぞ。それこそお前と知り合ったぐらいから」

イーサンは答える。

「結構前じゃん、じゃあ何で?大体“エリック”って名前自体、男の名前でしょう?」

ロシュを見ながらそう言う。

「俺は上流貴族の名前なんて知らない、」

赤毛はボソボソと答えた。

「まぁ“エリック”って名前は男一択の名前だと思うけど、そんな事関係無いのがロシュっていう奴で、そーいうとこが俺がコイツほど面白いものを見つけられない理由だな」

イーサンがそう締めくくる。

「はぁ、人に向かって思い付くままに何か言ったの初めてかも、」

エリックはため息をついた後、どこか嬉しそうにそう言った。





 今日は朝から忙しい。

エリックの家が古くから懇意にしている家とのパーティがあるからだ。何度も服を着替えさせられ、髪をいじくりまわされ、正直ウンザリしていた。

それにパーティは昼に行うため、今日は絶対にイーサンとロシュに会えないのだ。

二人と話すことはつまらない日々の唯一の楽しみとなっていたのでそれが無い今日は全くと言っていいほど張り合いが無い。

まぁ、必ずしも毎日来るという訳でも無いのだが、、、

訪ねて来ないまま昼休みが終わった時の絶望感よりは幾分かマシかもしれない。窓辺でソワソワ待って居るこっちの身にもなって欲しいものだ。

だから、今日自分がいないことを二人には伝えなかった。

精々僕の気持ちを味わうがいいよ!

そんなことを思っているうちに相手の家に着いていた。

別にこの家に来るのが嫌な訳では無いのだ。

友達と呼ぶのかどうかは分からないが、話していて楽しい相手は居る。

だがその楽しさはイーサンやロシュと居る時の弾ける様な楽しさとは違い、

もっとゆったりとした楽しさだった。

この家の息子は自分より一つ年上だ。

息子と言っても血は繋がっていない。養子の子だそうだ。

ここには芸術品が多く飾られていた。

何でもこの家の男主人は美しいものを集めるのが趣味なんだそう。

エリックも芸術品には少なからず興味があったが、男主人のことは昔から漠然と苦手だった。

何が苦手なのか、と問われれば何となくとしか言いようが無かったが、合わない相手というのはどこにでも居るだろう。

エリックの屋敷に引けを取らない大きな屋敷のパーティルームへ通された。

高い天井まで続く大きな窓にはこれまた大きなカーテンが引かれている。カーテンの細かな装飾は近くで見ないと描かれているものが何か分からないほどで、織り込まれた糸の一本一本が生きているかのように力強さを感じさせる。

天井からいくつもつり下がる特大のシャンデリアがゆらゆらと揺れ、会場に集まる多くの人を照らした。

沢山の食べ物や人が居る中、エリックは他のものには目もくれず、淀みない足取りで歩き出す。

向かう先には壁にもたれ掛かってつまらなさそうにしている少年。

この家の一人息子だ。

「久しぶりですね、レイくん」

エリックが少年に声をかける。冷たいような厳しいような、印象的な視線を持つ子供だった。

「エリックくん、」

レイと呼ばれた少年が伏せていた目を上げて言う。

「僕、レイくんが前に言っていたこと、やっと分かったんです」

「、、、前に言っていたこと?」

突然の発言に一瞬押し黙ったレイだったが、表情を変えずに聞き返した。

「ええ、“信じるものは自分で決める”って、前言っていたでしょう?」

「ああ、そんなことも言ったかな」

レイが理解したような声を上げる。

「僕、自分が信じてたこととか、好きだって思ってたことが、実は人から与えられたものだったって気が付いたんです。でも、自分が本当に好きで、楽しくて、信じたいことが何か分かったんです。自分で決めるってことの意味が、やっと分かったんです!」

エリックは嬉しそうに言った。

「へぇ、、、それは、良かったですね」

レイは、常には無い早口のエリックに気圧されたように呟く。

「随分と楽しげに笑うようになりましたけど、何か良いことでも?」

「‼︎、、実はね、」

エリックは目を輝かせ、誰にも話したことの無い秘密をレイにこっそり打ち明けた。





 イーサンがエリックに虫のイタズラを仕掛けてから半年が経とうとしていたある日、

「なぁ、お前、休憩短かくないか?」

いつものようにベランダの植木の前に腰掛けながら、緑の瞳の少年は言った。

「へ?」

何の前置きも無くいきなり言われたエリックは間の抜けた声を出す。

「確かに、短いな」

戸惑うエリックをよそに赤毛が同意する。

「この時間と寝る以外ずっと勉強してるんだろ?」

「ずっとでは無いよ、それじゃあご飯食べたり、お風呂入ったりする時間が無いじゃない」

エリックがクスクスと笑いながら言う。

「なに笑ってんだ、そんなの計算に入れる訳無いだろ。バカかホント」

イーサンが呆れたように言う。

「うん、かなりバカだな、勉強してるのにバカなんじゃ意味ないぞ」

ロシュがニヤニヤして言った。

「なんだよ二人して、そりゃあ僕だってもっと遊びたいけど、、、」

エリックは拗ねた様に言う。

「ちょっと厳しすぎると思うぞ、」

緑の目をした少年が腕を組み直しながら言った。

「折角スクラップタウン案内しようと思ってるのにな」

珍しくロシュも困り顔だ。

「スクラップタウンを⁉︎行ってみたい!」

エリックが身を乗り出して繰り返す。イーサンは横目でそれを見た。

「夜は何時に寝てるんだ?」

「八時には寝てるよ」

「八時⁉︎早すぎだろ!」

驚いて声を上げる。その声にエリックは目を見開くと、人差し指を立ててシーッと慌てたように囁いた。誰か来ていやしないかと、そっと中を伺う。幸い、気付かれなかったようだ。

「でもそんなに早いなら、夜行けばいいな」

小声で謝る友人をよそに、赤毛の少年は淡々と言った。





 それからの時間は長い様であっという間だった。エリックは二人からパイプの登り方、降り方を学び、スクラップタウンの常識をより具体的に学んだ。

エリックは非常に優秀な生徒だった。知識はよく吸収し、運動神経も悪く無かったので、二人の思っていたよりもずっと早く授業は終わった。

今日はいよいよスクラップタウンへ行く日だ。

エリックは昨日から楽しみ過ぎてよく眠れなかった。にも関わらず、朝は随分と早く目が覚めてしまう。

こんなに何かを楽しみに思ったことは生まれて初めてのことだった。

 目が痛くなるほど青く鮮やかだった空は、太陽の傾きでどんどんその色を変えて行く。

西に向かうにつれ真っ赤に燃え上がり、空を焼く太陽は、その丸い頬を地平線へと溶けさせた。青かった空を真っ黒に焼き上げた太陽が去った後、雲ひとつない空に星が輝き出す。

コンコン

誰かが窓を叩く。

常とは違う叩き方に違和感を覚えながら、エリックは天蓋付きの大きなベッドから飛び起きた。そして音を立てない様にそっと足を下ろす。

きめ細かく織り込まれた上等な絨毯はそんなことをせずともエリックの足音を消した。

少年は窓辺に立ち、高鳴る鼓動を聞きながらことさらゆっくりと窓を開ける。

「エリック」

月明かりに照らされ、キラリと光る赤い毛を夜風になびかせながらロシュはヒソヒソ声で言った。

「こんばんは、、?」

エリックは二人に声をかけようとして、一人しか居ないことに気が付く。窓をそっと閉めてからエリックはロシュを見た。

その目は何故イーサンが居ないのか、という問いをありありと写していた。

「父親に捕まった」

赤毛の少年は答える。

「イーサンが父親と仲悪いのは前話しただろ?来るのがあんまり遅いから見に行ったら説教されてた」

「そっか、だから叩き方が違ったんだね。じゃあ今日はイーサン来られないね」

エリックは残念そうに言った。

ロシュは薄暗い月明かりに照らされた、以前女の子と間違えた可愛らしい顔の友人を見る。

「大丈夫だ、アイツも楽しみにしてたから早めに終わらせて抜け出して来る」

膝に手を置いて立ち上がる動作をしながら赤毛の少年はエリックを慰めた。





 エリックはロシュに手渡された服に着替える。彼の服装はどうやったってスクラップタウンでは浮いてしまうからだ。

薄汚れた服を着て、整えられた髪を乱し、プランターの土を顔に少し塗れば、誰も貴族の息子だとは思うまい。

そう思っていたのだが、どうも取ってつけた感が否めない。

所作に滲み出る気品は見た目を変えた程度では拭えなかったのだ。

しかしこれで問題は無かった。

なぜなら貴族がスクラップタウンに来ることは無いし、スクラップタウンの住民にその違和感を感じるような経験は無かったからだ。

そんな感じで、変装は成功していると言えた。ベランダの塀を乗り越えるとパイプを伝って下まで降りる。

冷たいパイプの感触が手に新鮮だった。

噴水の音が聞こえて来る。舞い上がった水飛沫が月明かりを反射してキラキラと光った。

整えられて芝風踏み締め、規則正しく並ぶ木々の庭の陰になっているところを素早く走り抜ける。

赤毛は時々振り返り、貴族の少年がちゃんとついて来ているかを確かめていた。その様が、子猫を心配する母猫のようでエリックは少しだけ気恥ずかしくなる。

大丈夫だと言う事を伝える為にも、しっかりついて行かなければ。

ロシュは屋敷から一番近い垣根の、ある地点まで来ると、屈んで垣根の一部を引っこ抜く。四角く切り取られていたそこから外に出てもう一度そこに引っこ抜いた垣根を押し込めば、もうどこに穴が空いていたのかも分からない。

こんな風に入って来ていたのか、、

エリックは妙に感心しながら小さく頷く。冒険みたいで楽しくて仕方なかった。

 石畳の街をコツコツと小さな足音を響かせて二人は歩く。右に左に進んでしばらくすると、大きな川が見えて来た。川向こうで縦に細長い建物がチカチカと光っている。

「あれがスクラップタウン?」

エリックは光る建物を指差して聞いた。

「あれは中流の奴らが住む町。スクラップタウンはもっと奥」

ロシュはそう言うと、その方向には向かわずに右に曲がる。

「どこ行くの?」

エリックは赤毛を追いかけながら問いかけた。

「イーサン迎えに行こうかと思って」

ロシュは前を向いたままそう答える。

 少し歩くと、離れが三つほどある大きな家が見えて来た。柵で囲まれた庭にはひまわりが咲いており、馬車が三台停まっていて奥の厩舎から馬のいななきが聞こえて来る。

赤毛の少年はひまわりの咲く花壇の方から敷地内に侵入すると、エリックを手招きした。

「ここは?」

「イーサンの家だ」

「家⁉︎」

エリックは驚いたようにささやく。こんなに小さな住まいは初めて見た。

だって、ちょっと歩いただけで家に入れる。玄関まで馬車を使わなくていいだなんてそんな事があるとは思わなかった。正直、少し豪華な警備の屯所だと思った。

エリックが早速の衝撃に目を白黒させていると声が聞こえてくる。

「まだ喧嘩中か、」

赤毛は少し呆れた様に呟いた。ロシュはエリックの手を引いて家の中が見える位置に来ると、屈んで身を隠す。

長く伸びた草に二人は上手くまぎれる事が出来た。

「俺の話も聞いてくれよ!」

「聞く価値のある事など何もない!お前が友人だと言うくだらん奴らは、お前がどう弁明しようが私が認めることは絶対に無い!」

イーサンと大人の男の言い争う声だ。ロシュの話から察するに父親だろう。

二人が隠れている場所から窓が見える。カーテンは閉まっていなかった。大きめのテーブルがあるのでおそらくリビング。あんなに狭いがきっとリビングなのだろう。

そこに親子はいた。

二人の言い争う声を聞きながらエリックはロシュに尋ねる。

「ねぇ、どうしてイーサンはお父様と仲が悪いか知ってる?」

「知らない。でも分かり合えない人間なんて腐るほどいる。それががたまたま親だったってだけだろ」

そう声を潜めて答えた。

「でもそれって、、」

エリックが再び口を開いた時、家の方から大きな音がした。

二人は同時に音の方に顔を向ける。

父親は荒げていた声音を少し落とすと、諭すように言った。

「ろくでもない奴らとつるんで自分の価値まで落とすことは無いんだイーサン、お前は医者の子なんだぞ。それにただの医者の子じゃない、上流貴族付きの医者だ。

何不自由なく暮らせるだろう?お前は他の人間とは違うんだ、頭だって良い、私より優秀な医者になれるのは間違い無い程に!」

父親は息子を見る。どことなく悲痛な表情を浮かべていた。

「だったら、その優秀な息子の話聞けよ」

イーサンは小さく呟く。

「、、、ハァ」

父親はしばらく沈黙した後、深いため息をついた。

「お前にはガッカリした。もういい、寝なさい」

ふるふると首を振ってそう言うと、リビングから出て行ってしまう。

 エリックはバタンと勢いよく閉まる扉に軽く肩を震わせる。あんな風に乱暴な人間は見た事が無かった。

完全にいなくなった事を確信したロシュは、エリックを連れて窓に近づく。

エリックは背伸びして、窓をそっと叩いた。

コン、コココン、コン

音に気が付いたイーサンがこちらを見る。

不機嫌だった緑の瞳が嬉しそうな、それでいてどこか困ったような色に変わった。

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