その4 今日も神様がご機嫌でありますように

 帰宅して、少し仮眠を取ったあと、私は城址の歴史を改めて調べてみた。すると、戦国時代に籠城戦は確かにあったらしい。で、籠城側は全滅となっている。ということはあの女、白い幽霊だったあの女も、あの若武者も、みんな死んだのか。

 少し感慨深く、そして悲しくなってしまった。

 あの城攻めだが、攻めた側は、現代では英雄視されている有名武将だ。そう思うと歴史は敗者に厳しい。


 結局、あの時見た光景は何だったのか。白い女の幽霊は、自分を襲って殺した二人に怯えて逃げたのだろうと言うことは想像がつく。では、向こうで見た、あの若武者はなんだったのか。たまたま居合わせただけなのか? それとも本当に、あの女の彼氏だったのか?

 今となってはよくわからないが、彼があの場に居合わせたのなら、女は助かったんじゃなかろうか。いや、若武者があの二人に勝てたかどうかは怪しい。ひょっとすると女と一緒に殺されたかもしれない。


 早穂が振るったあの刀は、と言えば、これは想像に過ぎないが、あの二人の持ち物を現代に持ち込んだのだから、あの二人を斬れる、というなんだかよくわからないロジックかもしれない。 ……なんせ早穂は神様だから。

 早穂はそれを知って持って帰って来たということか。 ……そうそう、なんせ神様だからお見通しなのよ。

 いや、単にあのポーズをしたかっただけかもしれないけれど。 ……うん、こっちの方があり得る気がする。なんせ早穂だから。

 それにしても、神様は軽く振るだけで首を切っちゃうのね、ちょっと怖いわ。でも流石だわ、早穂。

 白い女の幽霊が刀を折ったのは、自分を殺した恨みをあれで晴らしたと推測しよう。あのあと、消えたし。


 さて、記事にしなくては、と思い、眠い目をこすりながら、それでも臨場感一杯に…… そう、確かに体験したのだ、耳元を掠めたあの矢の音を。

 だから当たり前なんだけれど、迫力に満ちた形で、しかし、また創作として記事にした。

 そうすると、帯刀編集長が喜んでくれた。

 曰く、良く調べたな、あの塚は若武者と恋仲になった農民の娘が一緒に祀られているって話が伝わっているんだぞ。

 --Oh!

 そうか、やっぱりそう言う関係だったのか。でもあの後死んでるんだよなあ、二人とも。

 できれば苦しまずに死ねていたら良いなあ。 と、私は思った。


 早穂が、ご飯が炊けたと目で言っている。炊飯ジャーが点滅している。

 --さて、ご飯は私がよそうことにしよう。任せっきりにすると、お仏飯になってしまう

 早穂は、今夜のおかずは、瓶詰のほぐし鮭で食べるつもりのようだ。最近、スーパーでいろいろな種類を買ってきたから、どうやら味比べを始めているらしい。 意外と庶民派な神様で助かるわ。

 ……まあ、今度、デパートで高級品を買ってあげよう。たぶん、また宝くじも当たるだろうし。


 うん、今日も平和だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る