第29話 淡いブルーを基調としたフレンチスリープのワンピースで、腰にベルトを巻くタイプのモノ
その日から、僕は瑠々に誠とのお出かけがバレない様に、必死に心に蓋をして過ごした。
少しでも油断すれば、彼と出かけることのできる喜びがあふれてしまいそうになるから。
瑠々には申し訳ない気持ちもあったけど、これは瑠々と真っすぐに向き合うための確認作業も兼ねている。
そして、迎えた二人でのお出かけ当日。
僕は可能な限り朝早くに家を出た。
今日行く場所が遠いということもあるけれど、それ以上に、誰か知り合いに見られることだけは避けたかったからだ。
この前の時のように、写真を撮られでもしたら大変なことになる。
「ちょっとかわいらし過ぎたかな?」
最寄り駅の改札前。
僕は服装を改めて確認する。
今の僕の服は完全に瑠々の趣味に染まっている。
瑠々は僕がワンピースを着るのが好きなようで、様々なタイプのモノを揃えてくれている。
最初、ワンピースなんてどれも同じだろうと思っていたのだけれど、これが意外と種類が豊富で僕は面食らったことを思い出す。
今日はその中でも気に入っているものを着てきた。
淡いブルーを基調としたフレンチスリープのワンピースで、腰にベルトを巻くタイプのモノ。
少しだけ露出をしつつも決して品を損なわない、と瑠々が言っていた。
「いや、これ気合い入りすぎてて誠にひかれないかな……。これなら普通にジーンズとTシャツにでもすればよかったかな」
なんてことをぷちぷちと考えていると、足音がこちらに近づいてきた。
顔を上げるとすぐそこまで誠が来ていた。
「お待たせ」
「おはよう、誠」
僕はワンピースの裾をキュッと掴み、誠を見つめる。
「それじゃあ行くか」
「う、うん」
何か言われるかなと思ったけど、特に言葉なく誠は改札口へと向かっていく。
誠はいつも通りの格好だ。
ポロシャツにジーンズ。
シンプルながらも彼のスタイルの良さが勝手に彼をおしゃれ上級者に押し上げている。
実際、誠はおしゃれには無頓着だ。
だけれども、周囲の評価は高い。
まったくもってうらやましい限り。
僕は男の子の時も女の子の時も、気を遣った格好をしないとおしゃれにならないというのに。
まあそれはどうでもいいとして、それよりも僕とは対照的にいつも通りな彼に少しだけムカついて思わず背中をつつく。
こっちは色々悩んでこの格好にしたんだ。
少しは察しろ。
「どした?」
彼はこちらを振り返る。
「なんか言うことない?」
僕は下唇を噛みながら彼を見つめる。
彼は軽めに眉根を寄せて僕を見つめる。
「ああ、もしかして生理……うおっ!」
思い切り誠の腹にめり込む僕の拳。
もちろん、彼の屈強な体に対して今の僕の拳なんて豆腐みたいなものだろうけど、完全に油断していた彼のお腹には豆腐でもそれなりに効いたらしい。
「それは金曜で終わってる! 生理の日にこんな格好するか!」
僕は腰に手を当て、少しだけ背中を丸めた彼にも見えるようにワンピースを誇示する。
「服のことか?」
僕は無言で頷く。
「確かに、私服を見るのは女の子になって初めてだな。俺はファッション全然わからんけど、似合ってると思うぞ。違和感ない。いや、見た目は完全に女子だから違和感ないのは当たり前かもしれんが、大丈夫。変じゃないぞ」
彼は深く何度も頷いた。
そこじゃない。
言ってほしいのはそういう観点からじゃない。
いやいやいやいや、落ち着け僕。
親友である誠に何を聞いてるんだ。
違うだろ。
落ち着け。
誠からしたら、男友達にまさかこの服が可愛いかどうかとか聞かれてるなんて思わないはず。
よくわからない自分の心模様を吹き飛ばすように、一度大きく首を振る。
「うん、違和感ないならよかった。いつも瑠々が選んでくれるから、今日は自分で選んだ分、不安だったんだ」
僕は気持ちを切り替える。
「そうか。俺の感想が役に立ったのなら何よりだ」
「ありがとね。それじゃあ早速出かけよう」
「目的地は遠いしな」
二人で乗り込んだ電車内。
既に夏の日差しが入り込み始めた車内では、クーラーがものすごい勢いで風を排出している。
そんなせわしないクーラーとは対照的に、電車はマイペースに進んでいく。
ごとごとごとんと、その重く長い車体を気怠そうに揺らしながら進んでいく。
「にしても行くの久しぶりだな」
誠は過ぎてゆく風景に目を向けながら、言葉をこちらに投げてくる。
僕と誠は隣同士に座り、同じ方向を見ている。
乗っている電車はロングシートで、隣同士に座れば必然的に見える方向も一緒になる。
窓の外では所狭しと並べられた住宅が流れていく。
「だね、小学校の修学旅行以来かな? 私は」
「俺もだな。修学旅行でお前と行って以来だ」
今日、僕と誠が訪れる予定をしているのはとある水族館。
小学校三年生の時の修学旅行で訪れた場所。
ただそこは、特段人気のあるという水族館でもなく、少しだけさびれた場所にある人気の少ない水族館だった。
でも、そのせいもあってか従業員は皆優しく僕らを迎えてくれたし、何より僕ら小学生からの自由奔放な質問に丁寧に答えてくれた。
素敵な思い出だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます