第17話 トぶわよ
「今日もいい音してるね」
「い、言わないでよ」
瑠々とのデートから数日後。
僕は校内のトイレで瑠々と一緒に個室に入っている。
僕は瑠々の監視の下で、いや、加護の下で用を足している。
音を抑えようとするけれども、女の子はその加減がどうにも難しく、少しずつ出そうとすると太ももを伝ってきてしまう。
かといって、強くすると周囲に音が響いてしまう。
瑠々はこちらを見つめながら僕のその葛藤を楽しんでいるように微笑む。
まあでも、こうして瑠々と一緒にトイレに行くことで僕が助かっているのも事実。
思った以上に、女子と一緒にトイレに行くということは強力な免罪符を得られたような気持ちになる。
何より恋人同士という強い絆で結ばれた瑠々の献身。
それが嬉しくもあった。
「次はどんな音と表情するか楽しみ過ぎる」
「やめてって!」
たぶん献身。もしかしたら、彼女の趣味なのかもしれない。
いや、そこを深く考えるのはやめよう。
ちなみに瑠々のも見せてよ、と言う勇気は僕にはなかった。
自分が見られているから瑠々のもっていう気持ちと、瑠々との行為によって自身の変態性が開拓されつつあるような気がしてならない。
女の子になるかどうか、心と体のバランス云々の前に性癖が壊れてしまわないことを祈るばかり。
「元気そうだな」
なんてことを考えながら帰り支度をしていた放課後。
誠が話しかけてきた。
僕は思わず笑みを零す。
「うん!」
すると誠は面食らったような顔をする。
「どした?」
「あ、いや、思った以上に元気そうだなと思って」
「あはは」
「最近は、その、どうだ?」
どうだ?
その意味を即座に理解する。
女の子になって初めて登校した日。
僕は誠の前で泣いた。
彼にはその時以来涙を見せていないが、情報も渡せていない。
あんな形で泣いてしまったのだ。
きっと誠も心配してくれていたのだろう。
基本的に誠と瑠々、僕の三人でいれることが楽しくて、あの日以来、誠の前で弱いところは見せていない。
見せるのは瑠々の前でだけ。
きっとこれが恋人と友人の違いなのだろう、と勝手に思っている。
「うん、トイレも、何とかなってるよ」
僕は瑠々監視トイレを思い出し、意識的にきゅっと股を締める。
これは言えないな。
瑠々の愛ゆえの行為ではあるけど、外部に漏らすべきものではない。
二人の間の特殊な事情だし。
「だって、トイレには私が付き添ってるからね。いつもどこでも薫ちゃんが安心できるように、私も一緒の個室に入ってしてもらってるの」
突如として聞こえてきた瑠々の声。
声の聞こえてきた方を見ると、ドアに背中を預けて腕を組み、まるで凄腕スパイのような雰囲気を醸し出す瑠々がいた。
いや、登場の仕方とその意味。
そして何より……。
「ていうか、瑠々! それは僕らだけの秘密にしないの?」
「どうして? 別に誠にならいいでしょ」
瑠々は僕の心配などどこ吹く風とばかりに平然と言ってのける。
いやさっき恋人と友達の違いを感じた僕の心よ。
確かに三人の中でくらいはいいのか。
いいのかな?
「同じ個室にって……」
一瞬、誠は戸惑うような表情を見せたものの、すぐにいつものフラットな表情へと戻る。
「まあでも、二人がそれで納得しているならいいか」
「受け入れるの早くない?」
「二人の間のことだから、二人で話し合ってそうなってるんだろ? なら、俺がとやかく言うことじゃねえよ。実際、薫も瑠々がサポートしてくれているおかげか、最初の頃より楽しそうだしな」
「でしょでしょ! 私の愛を薫ちゃんにはたっぷりねっとりと注いでいるから当然」
僕と誠の方に歩を進めながら、嬉しさを過分に含んだ笑みを浮かべる瑠々。
ふふん、という鼻も鳴らす。
可愛い。
「週末にさ、より薫ちゃんに似合う服を選んであげたんだけど、見る? トぶわよ」
悪い顔をした瑠々が誠にすり寄る。
「ほう、それは見せてもらおうか」
誠もいつもにないノリを見せる。
「ちょ、それはなんか恥ずかし……」
「どうよ?」
「ほほう。これはまた。薫も違和感なく着こなしているどころか、ポーズまで決めてやがる」
「おおん!」
そう、僕は瑠々に服を選んでもらううちに疲れからハイになってしまい、調子に乗ってポージングもしてしまったのだ。
まさか、ここで晒されるとは。
いや、楽しくあった思い出を誠とも共有できるのは嬉しいけれど。
「ま、なんにせよ薫が元気で、二人が仲良くやってるのが一番だな」
誠は微かに口角を上げ、納得したように頷く。
僕もそれはそうだなと思う。
僕の感情は一旦置いておくと、瑠々にフラれた後よりも遥かに状況はいい。
瑠々とはフラれる前以上に密な関係になれているし、三人でまたこうして楽しく話すことができている。
僕も誠と同じように、頷く。
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