二章 すれ違うことがわかっていた想いは、どこまでも痛くて重くて
第13話 あなたの初めてを奪うことになるんだもん
迎えた週末。
朝から昼に切り替わり始めた日差しが徐々にその強さを増してくる時間帯。
僕は最寄り駅の改札前にいた。
服は未だに女の子の塩梅が全く分からないので、あらかじめ瑠々に指定をしてもらったものを着ている。
こんな時、制服のありがたみがわかる。
制服なら何も考えずに着ることができる。
当たり前にあるモノがこれほどありがたいものだったとは。
もちろん、それは性別もそうだ。
当たり前に男の子だったことがとても懐かしく感じると同時に、貴重なことだったんだなと思える。
一人であるがゆえにそんなことをつらつらと考えていると声が聞こえてきた。
「薫ちゃん、遅れてごめんね」
「ううん、だいじょう、ぶ」
僕は思わず息を飲む。
瑠々と休日に出かけるのはこれが初めてじゃない。
何度もアニメ関連のショップに出かけたことがある。
しかし、その時の瑠々はどちらかと言えばボーイッシュな格好をしていて、可愛さよりも格好良さの方が前面に押し出されていた。
けれど今日は、晴れ渡る空に映える白のワンピースを身に纏っていた。
輝くようなその存在感と溢れる女の子らしさに僕の目はくぎ付けになる。
通り過ぎて行く人々も瑠々の麗しさに思わず振り返っている。
「どうしたの? そんなに見つめて」
「あ、えっと、いや、なんでもない」
僕は思わず目を逸らす。
「ふふっ。いつもと違う格好にびっくりしたでしょ。普段はね、私もあんまりこういう格好しないんだけど、今日は頑張っちゃった。だって、好きな人との初めのデートだもん」
かつんと瑠々の履いたパンプスの踵が楽し気な音を鳴らす。その音に僕の心も弾む。
「そっか、えっと、似合ってる、よ」
改めて瑠々に視線を戻した僕は、彼女に想いを伝える。
「ありがと。素直に気持ちを伝えてもらえるのは嬉しいな」
笑顔が眩しかった。
男の子の時から彼女の笑顔を素敵だと感じていたけれど、想い人を前にした彼女の笑顔は想像以上に眩しかった。
僕は思わず目を細める。
「それじゃ行こうか」
「うん!」
瑠々は僕の手を握る。
僕も手を握り返す。
二人だけの特別な時間が始まる。
そんな想いに由来する胸の高鳴りを感じ続けながら、最寄駅から十五分ほど電車に揺られた。
降車した駅の周辺には若者向けのショップが多く存在しており、周辺中学・高校の生徒たちが週末になるとこぞって集う場所になっている。
僕らの住む街は住宅の占める比率の方が圧倒的に多く、そのため落ち着いた雰囲気を有してはいるものの、今日訪れた街よりも刺激が少ない。
「やっぱりたまにはこういうところにも来ないと、高校生としてダメよね」
「だねっ」
僕は久しぶりに訪れた街の景色と喧騒に、気持ちが浮き立っていくのを感じた。
もちろんそれは、隣に瑠々がいるからということが大きい。
街と瑠々。
この両者が僕の心を浮つかせる。
「じゃあ、とりあえず適当に見て回る?」
「ちょい待ち」
歩き出そうとした僕を瑠々は引き留める。
そして、僕と繋がっていないもう片方の手でスマホを操作する。
どうやら何かを僕に送信したようで、バッグに入れているスマホが鳴動する。
僕は瑠々と繋いでいない方の手でスマホを取り出し操作しようとするが、いかんせん手が小さくなってしまったためうまく操作できない。
それを察した瑠々はさっと手を放してくれた。
僕は瑠々からのメッセージを見る。
するとそこには、ずらりと見慣れない英単語やらなにやらがいくつも並んでいた。
「瑠々、これは?」
「それは今日行くお店のリストだよ。今の薫ちゃんに合いそうなアイテムが置いてあるショップを事前にピックアップしといたの」
「それはまた大変だったでしょ?」
「大事な初デートだしね。少しの時間も無駄にしたくないの。だってあなたの初めてを奪うことになるんだもん。大事にしたいの」
「初めてって、デートくらい僕だって」
「したことあるの?」
「ないです。で、でもそんな瑠々こそどうなの?」
「んー、あるっちゃあるけどないっちゃないかな」
「いや、どっち?」
「そこは想像にお任せするね」
そこまで言うと、瑠々は僕の耳元に桜色のリップが映える唇を近づけてきた。
「ほら、早く行かないと時間、もったいないよ」
「な、ななな……」
耳元にあたる吐息に、僕の背筋は思わずピンと伸びる。
「じゃ、まずはあのお店からね」
「う、うん」
なんだかはぐらかされてしまったけど、本当はどっちなんだろう。
そう思いはしたけれど、とりあえず今は瑠々とのデートを楽しむべく、心から溢れそうになる疑問を無理やりに押さえつけた。
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