第2話 どこか歪な関係を素直に喜んでいた②
「行かないでよ」
「ちょ、なんで?」
「なんでって、その、好きなんだもん。薫君のこと」
目の前の彼女が言っていることが全く理解できずに、僕はさらに困惑する。
一体全体何が起きているのかわからない。
彼女はつい先日僕をフッた。
なのに、そんな彼女が僕のことを好きと言っている。
やはり、別の何かに乗っ取られたとしか。
「いやでも、この前僕の告白断ったよね?」
「そう、だね。でもあの時は仕方なかったの。だって薫君、男の子だったじゃない?」
瑠々は抑えていた肩から手を放し、僕の両手を取り、自身の胸元へと誘う。
「実は私ね、女の子が好きなの。女の子しか愛せないの。そういう心を持っているの。そういう心と付き合ってきたの。だから、薫の告白は嬉しかったけど、それ以上にはならなかった。なれなかった。友達としてあなたのことはとても好きだったけれど、性愛の対象として見ることができなかった。それがとっても悔しかったの。どうして私はこんなにも好きな薫君を愛せないんだろうって」
僕の両手に当たる彼女の熱い吐息。
それがとてもむず痒くて、僕は少しだけ身もだえる。
「でも、今の君なら愛せる。だって、君は女の子になったんだもん。ねえ、これって薫君にとってもいい話だと思わない?」
「え?」
「だって、君から見た私は何も変わらない。でも、私から見た君は愛の対象となったの。つまり、君の形が変わったことで二人の想いを邪魔するものはなくなったんだよ。ねえ、薫君。ううん、薫ちゃん。私たち、付き合おう。女の子な君となら私はずっと一緒にいれる。いることができる。女の子である薫ちゃんとなら、私、一緒にいることができるの」
「でも、その……」
実は女の子になったといっても、僕はこれからおよそ半年から一年後には再び性別を選択する機会を得ることになる。
僕は今のところ男の子に戻ろうとしか考えていない。
なので、僕が女の子でいられる期間は限られている。
瑠々は、その間だけ付き合えればいいと考えてるのかな?
それとも、このまま僕が女の子になると思って言ってきているのだろうか?
僕の脳内をあらゆる可能性が駆け巡る。
「でも、なあに?」
「ううん。何でもない。えっと、僕も瑠々と付き合えるのなら、それは嬉しいよ」
「ほんとに? 私も嬉しい。好きだったあなたと付き合えるなんて嬉しい」
僕は駆け巡った思考を排し、口から出そうになった言葉を飲み込む。
好きだった彼女の嬉しそうな顔を前に、僕はただただ彼女の意思を尊重し、自身の欲に蝕まれることしかできなかった。
この決断が後々大きな苦悩をもたらすことになるとは知る由もなく、僕は瑠々との間にできた新しい、しかしそれでいてどこか歪な関係を素直に喜んでいた。
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