第3話 禁じられた遊び

「お前も主人公デビルか!」


赤きヒーローは叫びを上げながら黄金の剣である〈ブレードゴールド〉で刃が高速回転するチェーンソーを受け止める。

火花が散る中で黒きのっぺらぼうは力を徐々に上げていく。


「その通り。僕の名前はスプラッタームービー。意味は残虐な映画。さあ、マスターのゲームに付き合ってもらうよ」


体格からは思えない男子の幼い声が発せられる。


「おのれ! この戦いは遊びじゃないんだぞ!」


「マスターにとってはこれはゲームなんだ。ほらほら、喋ってるとゲームオーバーになっちゃうよ?」


おちょくるスプラッタームービーに対して叫びを上げながら〈ブレードゴールド〉でチェーンソーを吹き飛ばす。


「さすがに力だけの人食いじゃダメだったかぁ」

 

余裕そうに言って次元の裂け目を開き、今度はナタを取り出す。

するとこの場全体が雪景色に変わっていった。


「こっ、これは? まさかこれがお前の能力」


「そう、これが僕の能力。スプラッター映画やパニック映画が作られ放映され続ける限り、僕は殺人鬼達や化け物達の使う能力や才能、武器、現場、すべてを使える。さあ、ゲームの仕切り直しだよ」


積もった雪に足を取られ、動きが鈍る赤きヒーロー。

その光景を見た連岩は「今の内だ。シルヴィア、シルヴィアのお父さん、早くここから離れよう」と口にする。


「いや、私……そっ、そうだね」


なにか言いたげだったシルヴィアに首を傾げつつ、3人で逃走を図る。


「待て!」


赤きヒーローが連岩達を追いかけようとするが、スプラッタームービーに背後を狙われる。

攻撃に対し「スピードアップ!」と早口で言い、ベルトの右部分のボタンを素早く叩く。

すると光の速度で攻撃を躱し、右足で蹴りを食らわせる。

しかしびくともせずバカにするように高笑いを上げられた。

  

「おっと、君の相手はこの僕だよ。真剣に僕に向き合ってほしいなぁ」


「この悪の権化が! 今すぐ倒してやる!」


怒りが頂点に達し〈ブレードゴールド〉を振り回す。

ナタで連撃を防がれるも、あまりのパワーにへし折れる。

武器を失いながらも、その巨体から伸びる腕で赤きヒーローの首を掴まえる。


「さあ、このままゲームオーバーにして上げるよ」


「俺は……死なん……正義の味方として負けるわけにはいかない……」


首を折られる前、ベルトの左部分にあるボタンを叩く。

ベルトのスクリューが高速回転し、エネルギーが黄色のラインから右足に伝達する。


「ジャスティス………キィィィクゥゥゥ!」

 

力を振り絞りスプラッタームービーの腹を蹴り飛ばした。


あまり破壊力に思わず首から手を離し、後ずさりする。


「ふーん。中々やるじゃん」


「俺のジャスティスキックを受けてなぜ倒れない?」


「そりゃー僕だって主人公デビルだからね。人間よりは頑丈さ」


雪景色の中で黒ずくめは次元の裂け目からアーチャリー競技用の弓と矢を取り出し、赤き戦士に向けて狙いを定める。

視界が奪われて行くがスプラッタームービーには見えている。


(名前なんて分からなくても、能力が分からなくても、ゲームオーバーにしちゃえば関係ないよね)


笑いながら矢を放とうとした。

その時だった。


『スー君大変だ! 先生に部屋にいないことがバレちゃった! 早く帰らないと怒られちゃうよぉぉ!』


マスターの危機的なテレパシーを聞き「わっ、分かった。すぐに戻るよ」と冷や汗をかきながら〈ブックエスケープ〉を使用、その場から緊急的にいなくなる。

雪景色が消えていくのを見届けた赤きヒーローは〈ブレードゴールド〉をベルトのスクリューに収納する。


「今度は……今度こそは……」


悪への怒りを力に変え、強く握った右拳を見つめる。


「かなりの強敵でしたね。ジャスティス」


そこに現れたのはカンバが通う学校で風紀委員ふうきいいんをやっている修内ミカンだった。


「マスター、どうしてここに?」


「私はあなたの相棒ですよ。心配して来てみれば倒される直前でしたし……」


「すまない。俺の力が足りなかったばかりに」


謝罪する彼に修内は相棒として、マスターとしてポーチから〈デビルフェイス〉を取り出す。


「ジャスティスは少し休んでください。まだまだ悪は蔓延はびこっているんですから」


ジャスティスはコクリと頭を縦に振る。


「俺はマスターを認めた。マスターは俺を認めた。その言葉に甘えよう」


ページが開かれると正義の戦士は〈デビルフェイス〉に吸い込まれ行った。


「私達は正義のために悪を倒す」


『もちろんだマスター。共に戦おう』

 

修内の正義の眼光は殺意に満ちている。

悪人を殺すことが彼女とジャスティスにとっての絶対正義。

世間が思う悪と2人が思う悪は違うのだ。


一方その頃なんとか逃げ切ったカンバ達は息を切らしながら足を止めていた。


主人公デビルである7人の内、2体の能力を確認できたのは彼にとって戦う前に対策が取れホッとしている。


「なんなんだあの化け物達は? いやそれよりカンバ君、とりあえず親御さんに連絡をとってくれるかな」


「はい。分かりました」


シルヴィアの父に従い、ポケットからスマホを取り出し、電話を母に連絡を入れる。


『もしもし』


「もしもしお母さん! カンバだけど。今警察の人が来てて、話をしたいんだって。代わるからちょっと待ってくれる」


『ちょっと!? いきなりどう言うこと!?』


母の動揺も無理はない。

入院中の息子から警察と話があると突然言われたのだから。

そんなこともお構いなしにシルヴィアの父にスマホを渡す。


「もしもし、警察署の者です。現在息子さんは犯罪グループに狙われている可能性があります。詳しい話はお家でしますので、家から出ないようにしてください」


『分かりました。息子は、カンバは大丈夫なんですよね?』


「えぇ、すぐにカンバ君をお送りしますので。では失礼します」


通話を切りカンバにスマホを手渡すと、シルヴィアの父は優しい表情で首を縦に振る。


「駐車場に車を止めてある。家まで送るから一緒に着いてきてくれるかな」


「ありがとうございます」


こうしてカンバは自分の家に無事に帰ることができた。

しかし当然バトルロワイヤル参加している以上倒される可能性はゼロではない。

ここから、ここから戦いが始まるのだ。

 


数週間後、別の病院で手当てを受け退院したカンバは高校で久しぶりに友達達と会話をしていた。

 

どこからか冷たい視線を感じるが、気にせず楽しい学校生活を送る。

そして帰宅途中、友人の1人と〈デビルフェイスシリーズ〉を探しに中古ショップを向かっていた。


連岩れんがん、今回こそ絶対に見つけような!」


「あぁ! 絶対な!」


自分はウソをついている。

友人にバトルロワイヤルに巻き込まないために、持っていることを言えない。

そんな歯がゆさをカンバは思う。

すると道中を進んでいると母親と娘の親子が通り過ぎた。


『神様、あの親子から主人公デビルの気配がします』


サルベーションのテレパシーを聞き、少しビクつくが顔には出さない。

  

(そうか。だけど今戦える状態じゃない。生き延びるには無駄な戦いは避けるのが吉だ)


『さすがは神様! 無益な戦いをしないことも大事ですもんね!』


(それに人を巻き込むのは絶対にダメだ。もしサルベーションが主人公デビル以外の者を攻撃したら許すことはできない)


かつて戦場を生き抜いてきた彼女にはおそらく人を殺すことにためらいはないだろう。

だからこそキツく命令しておかなければ、いずれ何人もの人間が殺害されることになる。

それは絶対に避けたい。


『分かりました。神様の言う通りに』


そう言って話終わった矢先、後ろから女性の悲鳴が聞こえる。


驚きながらカンバと友人は後ろを振り返ると、そこには前回襲撃して来た残虐な映画スプラッタームービーが親子をナイフで襲いかかろうとしていた。

 

「やめろぉぉぉぉ!!」


その時カンバは咄嗟とっさに黒きのっぺらぼうへ飛びかかり、親子を守ろうとする。


「うん? 僕達のゲームの邪魔しないでくれないかなぁ」


「ゲー厶って……命をなんだと思ってるんだ! 人に残機なんてない! 死んだらもう2度と生き返られないだぞ!」


恐怖よりも正義感がまさった彼の行動をスプラッタームービーはバカにするように笑う。


「君達人間はそうかも知れない。だけど僕は違う。色んな殺人鬼や怪物の能力によって不死身とも言える体を持っている。つまり残機どころかずっと無敵なんだよ。フハハハハハハ!!」


この怪物にとって命とは軽いものなのだと理解したカンバは怒りに任せてリュックサックからカバーを付けた〈デビルフェイス〉を取り出し、ページを開く。


「頼む救いサルベーション! こいつを! この怪物を倒してくれ!!」


カンバの叫びに小説が光り出し、異端のシスターであるサルベーションが飛び出した。


「お任せください。必ず撃破してみせます」


次元の裂け目からサブマシンガンとサバイバルナイフを取り出し、上空からトリガーを弾こうとする。

それを見たカンバは驚きながらもスプラッタームービーから手を離し、全力疾走でその場から離れる。

銃声とともに銃弾の雨が敵に向かって降り注ぐ。

ハチと成った敵に対して、追い討ちの回転蹴りを頭に食らわせる。

大きく吹き飛ばされたスプラッタームービーは地面を踏みしめすぐに肉体を再生させる。


「ふーん、やるじゃん。だったら今度はSFよりで行くか」


次元の裂け目からチャージ式のビームライフルを取り出し、サルベーションに銃口を向ける。

地面に着地したシスター高速とも思えるスピードで走り出す。


(はっ、速い!?)


あまりの速度に動揺している間にサバイバルナイフで左腹を切り裂かれる。

しかしすぐに肉体を再生させ、ビームライフルで射撃する。


「サルベーション!?」


カンバの叫びに後ろを振り返ろうとすると、影から信者の1人である痛みダメージが姿を現す。


「えっ」


勝ったと確信したスプラッタームービーは思わず驚きの声が出た。

 

呪いの人形であるダメージはバリアを展開し、ビーム弾を防ぐ。

すると黒き怪物に異変が、なんと体内から爆発を引き起こしたのだ。


「なかなかやるじゃん。でも僕には効かないよ。だって不死身だもん」


たとえどんな攻撃を食らおうと、すぐに再生してしまう。


「ダメージ、ありがとうございます。助かりました」

 

それに対してサルベーションは信者に感謝しつつ、サブマシンガンをスプラッタームービーに向ける。

この戦いはカンバとサルベーションが圧倒的に不利。

その時だった。


(そうだ! 確か信者の中に………)


彼は〈デビルフェイス〉のページを素早くめくり続け、勝つための方法を探る。


(これだ!)


見つけ出したのは信者の死神が出たページ。

死神は死を与えるモンスターとしてこの小説ではえがかれている。


「サルベーション! 君には死神の信者がいるはずだ!  その信者の力を借りれば勝てる!」


「神様の言う通りですね。悪夢ナイトメア、あの不死身を名乗る者を始末してください」


カンバの助言を聞き、シスターは影から死神であるナイトメアを呼び出す。

大鎌を持った死神はスプラッタームービーの視界に入れると、深呼吸を行う。


「ハァー……シスターの言葉のままに」


そう言って猛スピードで敵の背後を取り、大鎌で首をり取ろうとする。


「僕達のゲームは、まだ終わらない!」


首に刃が触れる直前、まるでスライムのように形状を変化させる。

攻撃は空振りナイトメアとサルベーション、カンバも驚きを隠せない。


「アハハハ!! 僕はどんな姿にも成れる。さっきの僕は借りのものなのさ! さあ今度はパニック映画に登場するあの恐竜だよ!」


スプラッタームービーの形状が肉食恐竜の姿に変わって行く。

それはティラノサウルスでもなければスピノサウルスでもない。

DNAディエヌエーを組換えて誕生した人造恐竜。

知性が高く、凶暴性が増した最恐の存在。

映画内では主人公達を大いに苦しめたラスボス。

そんなもので暴れられたらこの街が破壊されてしまうだろう。

 

「やらせません!」


姿を変えられる前にサルベーションはサブマシンガンをスプラッタームービーに向けて連射する。

しかしもう手遅れ、巨体でありながら俊敏しゅんびんな動きで銃弾を躱した。


逃げ惑う人々、駆けつける自衛隊。

恐竜となったスプラッタームービーを処理しようと戦車で砲撃するが、不死身の化け物に効くはずがない。


「ゲームの……邪魔じゃまを……しないでよ……」


楽しげで余裕な態度をとっていたスプラッタームービーが自衛隊の攻撃に対し邪魔だと言わんばかりに怒りの咆哮を上げ、尻尾しっぽを振り回し戦車を吹き飛ばした。

 

「このままじゃ。サルベーション、影にいるみんな、この戦いを止めるには君達の力が必要なんだ。お願いだ。あいつを倒してくれ」


カンバの真剣な言葉に、サルベーションは微笑みを彼に見せる。


「神様、私はあなたを裏切ることは決してありません。必ずお言葉にしたがい、実行し、そして完了させます。だから神様も私を信じてください」


そう言ってスプラッタームービーに向かって、神速とも言えるスピードで走り出す。

サバイバルナイフで尻尾しっぽを両断し、地面に落とした。


「信じてるよ。絶対勝てるって」


これは過信ではない。

サルベーション達への信頼があるできること。

恐竜と成ったスプラッタームービーを撃破するため、シスターはさらに速度を上げるのだった。

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