第二話:仏像の眼差しが俺に何かを訴えかけてくる件

 百済くだら仏師ぶっしたちの工房は、飛鳥あすかの外れにあった。

 夜中にこっそり訪問。バレたら終わりのスリリングな展開。まるでステルスゲーム。

「これが、銅造釈迦如来坐像どうぞうしゃかにょらいざぞうです」

 見せられた仏像は、高さ30センチくらい。木型から鋳造ちゅうぞうされた銅製で、既に形は完成していた。

「……すげえ」

 思わず呟いた。

 物部もののべの神像とは全然違う。物部の神像は【威圧+999】【攻撃力+500】みたいな、いかにも「敵を倒す」感じのデザイン。

 でも、この仏像は違う。

 その眼差しは、敵を射抜くんじゃなくて、すべてを受け入れるような……そう、まるで【防御力+∞】【HP自動回復】【状態異常無効】みたいなバフを全方位に展開してる感じ?

「これに、黄金の肌を与えてください」

「……おう」

 俺は【鍍金ときんスキル】を発動した。

 水銀と金を混ぜ合わせたアマルガム(練金術っぽいけど化学です)を、仏像の表面に塗り込んでいく。これを炉で熱すると、水銀が蒸発して、黄金だけが定着する。

 作業中、何度もその顔を見つめた。

 不思議なんだよな。物部の神像を作ってる時は、「強く、正しく、清く」って気持ちになる。でも、この仏像を見てると、「まあ、何とかなるんじゃね?」って気分になる。

 これが【慈悲じひ】ってやつか?

 作業は三日三晩続いた。

 完成した仏像は、黄金に輝き、まるで生きているかのような存在感を放っていた。

「……やべえ、俺、神様じゃなくて仏様作っちゃった」

 背徳感と達成感が入り混じった、複雑な気分だった。

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