第一話:百済の仏師から謎の依頼が来た件

 事件は三ヶ月前に起きた。

 その夜、工房に見慣れない男たちが現れた。服装からして渡来人とらいじん百済くだら系かな?

眞鐵まがね殿でいらっしゃいますか」

 リーダー格らしき老人が、丁寧な大和言葉やまとことばで話しかけてきた。

「そうだけど……何の用? 物部氏もののべしの許可は取ってんの?」

「それが……その……」

 老人は困ったような顔をした。

「単刀直入に申し上げます。我々は蘇我氏そがしの庇護を受けている仏師ぶっしの一団。今、釈迦如来像しゃかにょらいぞうを製作しているのですが……どうしても、あなたの【鍍金ときんスキル】が必要なのです」

「は?」

 一瞬、耳を疑った。

「いや、ちょっと待て。俺、物部氏の専属なんだけど? 蘇我氏って、物部様の宿敵じゃん。バレたら一族郎党火あぶりコースなんだけど?」

「承知しております。ですが……」

 老人は背負っていた荷物から、見たこともない量の絹の束を取り出した。

「これが前金です。成功報酬として、さらにこの三倍をお支払いします」

「……マジ?」

 俺の年収の十年分くらいある。

「さらに、百済から持ち込んだ水銀もお渡しします。これがあれば、あなたの【鍍金スキル】はさらにレベルアップするはずです」

「……チートアイテムじゃん」

 正直、めちゃくちゃ迷った。

 物部氏への裏切り:デスペナルティ【一族全員火刑】

 報酬:年収10年分+レアアイテム【水銀】+技術レベルアップ

「……条件がある」

 俺は深呼吸した。

「仏像本体は作らない。鍍金の技術指導と、最終仕上げだけ。それなら、ギリギリ良心が保てる」

「それで結構です!」

 こうして、俺の人生最大のサイドクエストが始まった。

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