11 パンプキンパイ
アリエッタの質問に、ドラクロワは薄い眉を顰めて考え込んだ。それから、ふと顔を上げ、アリエッタたちを見回した。
「……お腹空きませんか?」
話を逸らされたのだろうか。アリエッタは口の中が苦くなったのを表に出さぬよう、必死で隠す。
しかし、子どもたちは困惑を隠しきれなかったようだ。キーラに至っては憤慨しかけている。
「ああ、いえ。誤魔化そうっていうのではなくて。いい時間だし、お話するならお昼を食べながらというのはどうかな、と思いまして」
よろしければうちまで、と住宅街のほうを示す。
確かに、お日様も天上まで昇ってきていた。まさしく良い時間。
「……いえ。お世話になるわけには」
どうか子どもたちが安易に承諾しませんように、と祈りながらアリエッタは断りを入れた。アリエッタには監督責任があり、もっと言うなら保護者の立場だ。だが、社会的な地位は、あくまでもキーラたちのほうが上。キーラが諾してしまったら、アリエッタは覆すことができない。
幸いにして、懸命なるキーラお嬢様は少しばかり残念そうにしながらも黙っていた。
ドラクロワ伯爵は、悲しそうにする。
「ご存じのとおり、私は余所者でしょう? ですから、お友だちがいなくて」
「なら、おじゃまします!」
アリエッタは空を仰ぎ、掌で両目を覆った。殺し文句だ。こう言われてしまっては、お優しいキーラお嬢様は飛びついてしまうし、アリエッタがそれに反対するのも躊躇われる。
ドラクロワがこんなに嬉しそうな顔をしてしまえば、なおさら。
「では、案内します。故国から連れてきたシェフの、タルト・オ・ポティロンは絶品ですよ」
「タルト、オ……?」
「ああ。ええと……パンプキンパイのことです」
ドラクロワはキーラをいっぱしのレディのごとく扱ってエスコートする。うきうきしているように見えるのは、アリエッタの錯覚ではないだろう。
ティミーがなんとなく嫌そうな様子で服を掴んでくるが、アリエッタにはどうすることもできない。仕方なくティミーを引きずって、二人に付いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます