第16話 必死のごまかし、崩れかけた幻影

翌日――。

昨夜の「ボイチェン切り忘れ配信事故」は、すでに界隈を騒がせていた。


コメント欄は開幕からお祭り騒ぎ。


『おはよう!女の子おはよ~!』

『昨日の声マジで本人?www』

『社畜幼女説もう確定でしょ』

『“幻影たん”かわいい♥』


俺は低く、わざとらしく喉を鳴らす。

「おい……誰が“たん”だ。昨日のは、ただのノイズだ」


■ ごまかしのイケボ


必死にボイスチェンジャーを再調整し、

いつもの低音を作る。


「……おいお前ら、昨日のは聞き間違いだ。

 マイクの接触不良ってやつだ」


コメント欄:

『接触不良(高音幼女ボイス)www』

『ノイズが“社畜つら…”は無理あるwww』

『声ガラガラで草』

『焦ってるのバレバレ』


■ チャットに翻弄される


「……うるせぇ。誰が幼女だ、ふざけんな」

低音を無理に保ちながら、声が裏返る。


『かわい~♡』

『クロウたん怒らないで~』

『幻影くん今日いつもより声ちっちゃくない?w』

『ボイチェン限界音割れしてるwww』


「ちょ、違っ……いや、あの、配信設定がだな――」


言い訳すればするほど、コメントが増える。

視聴者数は逆に増えていった。


■ リスナーの悪ノリ


『幻影ちゃん、今日は影もかわいい動きしてるね!』

『声バグってるのにプレイ精度だけバグってるの草』

『ギャップ萌え最強配信者爆誕w』


俺は頭を抱えながら、デコイを展開。

「……黙れ。影出すぞ、全員撃ち抜くぞ」


だがその声は、

――また少し高く震えていた。


コメント欄:

『あ、素出たw』

『かわいすぎて草』

『こいつもう戻れねぇwww』


■ 締め


配信を切ったあと、俺は机に突っ伏した。

「……最悪だ……こんなんじゃ“幻影クロウ”の威厳が……」


だが、SNSのトレンドには――

《#幻影クロウかわいい》《#幻影たん覚醒》《#ギャップ最強》

の文字が並んでいた。


「……マジかよ……お前ら、ほんと悪趣味だな」


苦笑しながらも、

どこか照れたようにモニターを見つめる俺がいた。

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