2-6「ねっアレってキスしちゃうのかね?」

アポロとシルク、二人の情熱的な熱く激しい動きがさらに混乱に拍車を掛けていく。

この大混乱は、元味方のドレフィス総司令官にとっても、敵の司令官にとっても、完全に想定外だった。


ドレフィス総司令官にとっては勢いの増した敵に囲まれ組織的抵抗すらできずに破滅への道を堕ちていくのをただ呆然と感情すら失い見ていただけだった。


敵の司令官にとっては後方の本陣で、彼もただ呆然と、自軍と、味方であるはずの部隊同士が殺し合うさまを眺めていた。そしてその防御は、今、最も手薄となっていた。


「シルク!」

アポロの隻眼が、遥か前方の敵本陣を捉えていた。


「タンゴのフィニッシュだ!」

二人は、混戦を切り裂く一筋の矢となって、敵本陣へと一直線に突撃した。


彼らの前を阻むものは、もはや何もなく、敵司令官とその首脳部を血祭り上げ、さらに残りを各個撃破していき、軍としての機能を停止させた。


フィニッシュを迎えたその瞬間、アポロとシルクは抱擁と熱い視線を交わし、張り詰めた戦場の空気の中で互いの粗い呼吸を聴いていた。その瞬間、二人が語り合ってきた物語(獲物の横取り、肉串、駆け引き、裏切り、勝利)が集約され、この瞬間の生を共に歩んだ二人が、その最後に辿り着いた感情の結晶であり、形容しがたい言葉にならない想いを表現する、最も雄弁な瞬間を迎えた・・・・。


「ねっアレってキスしちゃうのかね?」

「いくらなんでもやっちゃうでしょ!」クリムゾン・ファングの若い娘たちがはやしたてていた。


アイアンウルフの古参であるジョーが、割って入り

「いや、アレは余韻ってやつだな。「なにソレわかんない」・・なんていうかな、あのダンスで十分に交わったって感じ・・かな」


「でもここでやんないのはヘタレだね」「ねー」

「・・・若い娘にゃ敵わねぇ」 肩を一つ竦めるとその場を去るジョーだった。


動きを止め瓦解した敵軍は放置し、裏切ったドレフィス総司令官と愉快な仲間たちへお礼参りする。

そこでこの二人を裏切ったらどうなるかの見本となるような惨劇がシルクによってくりひろげられたが、アポロは黙して決して誰にも語らなかった。


生き残った者たちの間には、もはやいがみ合う空気はない。過酷な戦場を、そして卑劣な裏切りを共に生き延びた者だけが共有できる、静かで、しかし鋼のように強固な連帯感が生まれていた。


彼らは、国境を越え、辺境の砦都シルバラードへと流れ着いた。無法者と、追われる者と、夢見る者が集う、混沌とした自由の街。


アポロとシルクは、裏切り者の司令官からせしめた報酬を生き残った部下たちに分け与え、それぞれの傭兵団を解散した。

彼ら二人には、もはや多くの言葉は必要なかった。

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