2-5「おい、アンタのとこの大将とウチの女王さまが組んだら世界最凶だな!!とんだイカレポンチだ!」
シルク隊は、一転して敵に背を向け、後方で混乱し始めた裏切り者たちの陣地へと駆け抜けていった。
それを好機と見た敵の追撃部隊も猛烈な勢いでなだれ込む。
ドレフィス総司令官の指揮する元味方の裏切り者部隊の陣地を文字通り駆け抜けていったシルク隊の動きに、「なぜ騙し討によって死んでいるはずのコイツらが駆け回っているのか」と困惑し逡巡し、翻弄されまくった結果、裏切り者部隊の隊列は、陣形が完全に機能しなくなり、そこへ、敵の追撃部隊が猛烈な勢いでなだれ込むことで、パニック伝染、兵の逃亡、同士討ち、装備の遺棄が起こり、ドレフィス総司令官やその取り巻きたちが怒声を上げるも効果はなく、もはや軍隊の体をなしていない状況に陥った。
後方陣地は、「敵軍」「ドレフィス総司令官の指揮する元味方の裏切り者部隊」「アポロ・シルク隊」が入り乱れる、三つ巴の大混戦となった。
この時、第三者による注意深い観察者がいれば、「アポロ・シルク隊」は未だ隊列を乱さない「敵軍」の組織的な機能を喪失させるよう将官級や中級士官級の滅殺に力を入れ混乱をさらに拡大させて漁夫の利を得ようと立ち回っていたことに気づいたかもしれない。
「やるじゃないかアポロ ! アンタの筋書き通りさ!!」
双剣を振るいながら、シルクは天井知らずに高まる高揚感を抑えることができなくなった。
「シルク凄いな。そして美しい。」
魔銃を撃ちまくりながら、加速して合流したアポロも予想以上の働きで奮闘する真紅の美しい姿を魅せるシルクに戦慄と興奮を抑えきれなくなった。
二人の感情が発露し響き合った時、お互いの名を呼びはじめたことに二人は気づかなかった。
そしてその混沌の只中、アポロとシルクは、まるで磁石のように引き寄せられ、自然と背中を合わせる形になった。
それは、パートナーとして互いの全てを預け合う、タンゴにおける「アブラッソ(抱擁)」そのものだった。
「シルク、ド派手な踊りだな!まるでタンゴだ。」
アポロは敵兵の首を銃床で殴り飛ばしながら叫ぶ。
「アポロ! あんたこそ思惑通りゾクゾクさせてくれてイカれてるよ!」
シルクは軽口を叩きながら、アポロの死角を狙う敵兵の喉を双剣で切り裂きつつ、本能の赴くままタンゴにおける「カミナータ」のような動きを魅せ、猫のようにしなやかに滑らかな歩行を行っていた。
続けて、シルクが本能の赴くまま地面に8の字オーチョを描くように動く、「前進のオーチョ」、「後進のオーチョ」でステップを刻むと美しい所作に誘われるかのようにアポロは安定した軸を保ちながらシルクの動きをサポートしていく。
言葉はなくとも、互いの呼吸、筋肉の動き、殺気の流れで、次に相手がどう動くかが手に取るようにわかる。アポロの冷静な指示が「リード」となり、シルクの野性的な動きが、そのリードを完璧に読み解く「フォロー」となる。
背中に感じる、確かな体温。それは、この裏切られた地獄で、唯一信じられるものだった。
アポロとシルク、二人がダンスを通して語り合い、惹かれ合ったり駆け引きしたりする情熱的なタンゴの動作をしていくたびに周囲の敵兵が滅殺されていくさまに二人の部下たちは戦慄していた。
あの動きで人が死ぬのか?とか、
アレは「ボレオ」か? 脚をムチのようにしならせて前後に振ってるが、あ、股間に・・ありゃ強制的に女になったな。
「おい、アンタのとこの大将とウチの女王さまが組んだら世界最凶だな!! とんだイカレポンチだ!」
クリムゾン・ファング二番手の青い瞳を持つブルーがポロリと漏らした本音に、皆苦笑するしかなかった。
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