海の底の空を越えて

【海の底の空を越えて①】

「ハハッ!すっとろい動きだぜ!齢90の爺かよお前は!!」


 ゴジュモスの熱線を完璧に避けて見せる麻葉には、余裕があった。


 最初こそ見た目のインパクトに驚かされたが、その動きは緩慢で、動作さえしっかり見ていれば避けられると気づいたのだ。


「熱線は前準備の動作が大きい。腕振る動作は緩慢で、トロットロ。なんだよ、ダメージが効かないで雑魚じゃねぇかお前」


 ゴジュモスの攻撃の隙をついて剣で攻撃するが、ダメージは与えられない。


 ゴジュモスの鱗は攻撃した剣が刃こぼれする程の硬さを誇っている。ただでは傷つけることはできない。


「初期武器じゃダメだってことかよ。ちっ、何とかダメージを――」


 瞬間、赤い光がコックピットを包んだ。


「な、なんだ!?」


 ゴジュモスの体が赤く光り出す。黒かった鱗が赤みがかり、口の吐息は炎が漏れ出す。


 大気がその熱で歪み、海の水が触れた瞬間蒸発し、湯気が立つ。


「第二形態っていうことか。ハ、ハハッ!やってやろうじゃねぇか」


 【まだ楽しませてくれるのか】。


 麻葉は笑い、甘く見ていた。


 レギオンⅠの操作に慣れてきたのもあるが、今までの緩慢な動きに慣れたことで余裕が現れてしまっていたのだ。


 ゴジュモスはそれを見逃さない。


「また腕の攻撃。そんなの――って!?」


 ゴジュモスの左腕が風を切り、まるで別の怪獣のように速くなった。


「くっ!?」


 急速回避をし、ギリギリ避けた。が、手の爪が伸び、レギオンⅠの左半身を切り裂く。


『左半身損傷率100%』


 軽々と吹き飛ぶ左足と左腕。飛び散った衝撃で、機体が激しく揺れる中、被弾のアラームがコックピット中に響き渡る。


 左半身がダメージを受けたことでバランスも悪くなり、機体制御が思うように動かないことに、麻葉は焦りを覚えてた。


「や、やろう!!」


 それだけではないとゴジュモスは右腕を振るい、更に左腕を振るう。


 その交互の連続攻撃で間合いを詰めてくる。


「さっきと!別モノじゃねぇかよっ!だが、簡単に!沈んでたまるか!」


 機体制御が効きにくくなったレギオンⅠを必死に動かし、攻撃を回避するが――


 ゴジュモスは腕を振りながらも、溜めていた灼熱のブレスを吹きかけた。


「これ……っ!」


 モニターから映し出される光景全てが、炎に染まる。


 目の前だけではない。左も右も上も下も、全ての逃げ道を防がれ、麻葉には……何もできず、立ちすくむ。


「ちっ、もうちょっと……やれると思ったんだけどな」


 もう避けることはできないという現実を悟り、ゴジュモスに向き直る。


「次は絶対負けない。覚えてろよ」


 レギオンⅠの残った右手で、ゴジュモスに中指を立て、攻撃を受ける。


『機体損傷率100%。脱出ポット作動します』


 機体が破壊された際に放出される無敵判定付きの脱出ポットが、麻葉を乗せ海に射出された。


 この脱出ポットの排出は――プレイヤー側の敗北を告げるモノ。


「……負けちまった」


 久しぶりの負けに麻葉は悔しさを覚え、敗北はいつでも辛いものだと思い知る。


 ふぅーーと様々なモノを息を吐き出す。


「もう、負けない」


 そう決意し、いつかゴジュモスに再戦することを拳を握り、誓う。


 様々な感情を落ち着けた麻葉は、改めて現在の状況を確認した。


「……チュートリアル通りなら、ポッドの中に入ってれば安全だから、後は回収されるか、リスポーンを待つだけ、か」


 【テラ・レギオンズ】では機体がやられた場合は、こうしてすぐに再出撃できないように、ポッドで待たされることとなる。


 ポッドの中では音楽、動画サービスを契約しているならば、それを流しながら時間つぶしもできるので、麻葉も何か音楽を流そうとしていたが――


「にしても、ちっとも海から上がらねぇなこのポット」


 ポッドの中のスクリーンはずっと海の中であり、何故か海に沈んでいる気がする麻葉。


 これが仕様かは麻葉にはわからなかったが、少なくとも異常を1つ見つけた。


「貴方地上の人ね!今地上に返してあげるから、ちょっと待ってて」


 かん高い声に、透明な羽を持つ緑髪のショートカットの手のひらサイズの小人が、いつの間にかポッドの宙を舞っていたのだ。


「待て、誰だお前」


 その回答を待たずに、何か唱えだす小人。


「待てって言ってるだろ!!」


 何か唱えている小人を手で鷲掴みにし、強制的に詠唱を中断させる。


「は、離して!このままじゃ、落っこちちゃう!」


「は?」


「機械は【アトランティス】に来ちゃいけないんだからね!!わかってるの!?」


「お前が!勝手にここに来たんだろ!!そっちの都合を押し付けるな!!!」


 そうして言い合いしていると、ポッドが激しく揺れる。


「あ、ああ貴方!このままじゃ帰れなくなっちゃうのよ!?」


「何が!どうなって!!そうなるっつってるんだよ!!!」


 終わらない言い合いの中で、ポッドの揺れは激しさを増し、ついにはジェットコースターの頂点から堕ちた時の浮遊感が、2人を襲った。


「あ、ああああああああああああああ!!!!」


「堕ちてるーーーーーーーーーーーー!!!!」


 2人は堕ちた。世界の境界に。


 そして水の膜を突き破った瞬間、光が爆ぜ、目の前に森が広がった。


「う、海の底に、森が見える!?」


 そこには見えたのは、辺り一面に広がる自然豊かな森、恐竜のような10M級の巨大生物、更には中世時代のような石造りの城。


「は、はぁ??」


 何が起こったか分からない麻葉に、コンソールが出現し告げる。


『ワールドクエスト:【海の底の空を越えて】が開始されました』


「何がどうなってるっていうんだよーーーーーーーー!!!!」


 驚きの連続に、麻葉は声を上げることしかできなかった。


 麻葉は来てしまったのだ。


 海の底を超えた別世界――【アトランティス】に。

―――――――――――――――――――――――

テラ「な~んで、妖精ちゃんの転送止めちゃったかなー。普通は引っかかって止めないと思うんだけどー。

 さーって、運営に報告してワールドクエストの準備始めないとな―」

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