第33話 白の街2
白い廊下に解放された窓。どこかギリシャに、そんな街があったような気がする。
「わたくしは、この領地をまとめております、リンカと申します」
歩きながらの自己紹介に、
「わたしはセキエイ、こちらは妻のアキラと言いいます」
リンカは、こちらを向いて微笑む。初老に見えたのはたくさんの白い髭をたくわえていたからなのだが、顔の皺を見ると、もう少し年齢は上かも知れない。
領地と言う言葉にセキエイがピクッと反応する。
グバンのマステール領の隣にある街と聞いたはずだが、ここは領地なのだろうか。
含めてセキエイの瞳が鋭くなる。
「セキエイ殿」
小さく、おずおずとフーギリアが、こちらを見ながら、
「失礼と承知なのですが、アキラ殿は女性、ではないと見受けられますが」
「問題が?」
「あ、いえっ」
「セキエイ!」
どうも不審な部分が出てきて警戒心がマックスのセキエイはフーギリアの言葉を両断して、じろりと彼を見る。
「フーギリアさん、セキエイとは将来を誓い合った仲です」
すっと二人の間に入って微笑む。
「そういったことを聞くでない」
リンカが注意をして「申し訳ない」とフーギリアが下がる。
不憫に感じて、まだこちらを見ていたフーギリアに微笑むと、顔を赤らめて前を向いてしまった。
ぞわっと後ろから殺気らしきものを感じて、恐る恐るセキエイを見ると眉間に皺を作り、明らかに怒っている。
「そんな顔しちゃだめだよ」と、
セキエイの隣に戻って耳打ちするが、治る様子がないのでため息をつく。
「わたくしの部屋です、どうぞ」
開かれたドアの中は、窓が開放され、薄い白のカーテンが風に揺られていた。
その前に執務室のようなテーブルとソファが置かれ、すでに紅茶らしきものが机の上に並んでいる。
「おかけになってください」
リンカの一声に、セキエイと僕、リンカとフーギリアの対面で座り、いつ話を切り出すかとしているところで、あまりに始まらないものだから僕が紅茶を持って、すっと口にする。
「面白い味ですね、苦味はないし甘すぎない」
あまり紅茶は飲まないので、感想は専門的ではないがおいしいのは本当だ。
僕が飲んだことにより、少しだけ場の空気が和らぐ。
リンカが、にこにこ笑って、自分も紅茶を飲んだ。
「わたくしも好きなんですよ。マステールで採れる茶葉を干して煎じた、我が領地の特産品なんです」
「……今回の件でなにを聞きたいのか、疑問なのですが。助けて頂いたのは感謝しきれません。子供たちも妻も飛馬も大切な宝です。守って頂きありがとうございます」
紅茶に手をつけずにセキエイが言う。
「恐ろしい目に合われたこと、心痛極まりない。我らも残党を探していたところ、貴方たちが被害に遭われ、無事であったことは喜ばしいことです」
フーギリアが背を正して言う。
確かに助かりはしたが怖い目に合い、子供たちは、特にアルシュバッドは兄と呼んでいたハンスの死を見て、なにを思ったか。セキエイが何度も話し合っているが、彼の表情は曇ったままだ。
「あの子供たちは、どこかの部屋に?」
そういえば居所を聞いていなかったと疑問を投げかける。女性のお手伝いさんと言えばいいのか、彼女らに連れられていった。
「一番、眺めがよい広い部屋をご用意しました。少しは心が晴れればよいのですが」
「ありがとございます」
気遣いに頭を下げて笑う。
ピキは寝ているし、それをミサーラが面倒を見るだろう。
アルシュバッドの様子は気になるが、子供たちがいるなら自暴自棄にはならないはずだ。
「では、本題があるのでしょう、リンカ殿」
襲われた件について話すならフーギリアの報告で、充分であるし、深く話すことはない。リンカはなにかを聞きたいのだ。
なにより、ここが領地であると初めて聞く。セキエイの話だと、ただの街だと聞いていたし、まるで合併してたと言っているように聞こえる。
「もちろんでございます、セキエイ・キス・ミネラル第二王子」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます