第3話 明後日
それからお互いに落ち着くまで、しばしの沈黙があってから、
「――セキ」
「大丈夫か、アキラ」
先に言われてしまった。
「平気、セキエイも平気?」
「ああ、大丈夫だ。アキラ、今日はどうする? 疲れているのに付き合わせたんだ。止めておくか?」
問われて僕は目覚まし用の時計を見る。このまま寝てもいいし、まだセックスを楽しんでもいいが、セキエイに疲労を誤魔化すのは悪い気がして、
「ごめん、もっとしたいのは本当なんだけど、セキエイ、ごめん」
「謝るな。遠慮なく言ってくれ……アキラ、明後日は空いているか」
えっ、と素で言葉が出る。
こんなことを言われたのは初めてだ。
「空いてる」
「会えないか」
びくっと身体が飛び上がる。そこから生身で会うわけじゃないだろうと首を振る。
テレフォンセックスは週に一度の楽しみとして、お互いに、この日だけは空けるという約束の下、成立しているのだ。
飛び散った白液を拭き、ディルドのゴムを外して身の回りを整えてベッドに座る。
「僕はかまわないけど、セキエイは平気なの?」
正直、嬉しいと思っているところはある。
毎日は身体がついていかないだろうけれど、明後日くらいには身体も整えられて、セキエイを受け入れることができるだろう。
「でなければ提案しないだろ。来週に予定が入りそうなんだ。だから、その前にもう一度おまえに会っておきたい」
ぶわりと熱が身体を襲う。熱だ。こんなにも求められて嬉しいことはない。
「わかった。なにがなんでも空ける。時間はいつも通り?」
「ああ」
ハスキーな声が僕を包んでく。
「絶対に空けるから」
「くはっ、そんなに会いたいか」
「そんなに会いたいよ」
電話の先で息を飲むような音がした。
なにかと思ったが、そう気にすることでもないだろう。
「じゃあ、セキエイ、おやすみなさい」
「……ああ、アキラ。いい夢を」
そう言い合って、僕は電話の終了ボタンを押し、ベッドに転がる。
本当は週に一度だけでは足りないところはあったのだ。週二回とか、そんな話にならないかすきを窺っていた。これは足掛かりに丁度いい。
失礼ではあるがセキエイの用事が、突如なくなればいいなんて思う。
そしたら「いつも通りの日に、もう一度しよう」と言ってみてもいいかもしれない。
枕を抱きしめながら「明後日かあ」と顔を埋める。
セキエイに会うならば、いつでもいいと思えるぐらい、僕は彼に夢中だった。
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