第4話 喝采と期待
村を救った勇者一行は、王都へと凱旋した。
王城の前には、すでに人の波が押し寄せている。
「勇者様だ!」
「魔物を退けたんだって!」
人々の歓声が、石畳の大通りを揺らす。
アルヴァンは胸を張り、セレーネは優雅に手を振り、
リュシアンは軽口を飛ばし、クラリスは柔らかな微笑みを浮かべる。
そしてノインは――。
(やっべぇぇぇ!なんか俺まで英雄扱いされはじめてる!?)
たしかに、群衆の視線はノインに注がれている。
「土の勇者様だ!」
「大地を操る奇跡の力だ!」
「村を救ったのは土の勇者様なんだって!」
(いやいやいや!俺なんもしてねぇぇぇ!でも否定したらバレる!ここは……堂々と!)
ノインはゆっくりと手を掲げ、威厳たっぷりに言い放った。
「……大地は人を裏切らぬ。私はただ、その声を伝えるのみ」
(ほんとは畑の土を蹴った”のみ”なんですけどぉぉぉ!!)
大歓声。人々は涙を流し、子どもたちは「土の勇者様ー!」と叫んだ。
(ふおぉぉぉ!またカッコつけちゃった!これ、もう後戻りできないやつだ!)
――その夜、王城の大広間で祝宴が開かれた。
豪華な料理が並び、音楽隊が奏でる旋律が響く。
国王は満面の笑みで勇者たちを迎えた。
「よくぞ村を救った!特に……土の勇者ノインよ!」
ノインは思わず椅子からずり落ちそうになった。
(えぇぇぇ!?なんで俺がピックアップされてんの!?アルヴァンたちの方が戦ってたじゃん!)
国王は続ける。
「そなたの“地を操る力”は、魔王討伐の切り札となろう。王国の未来は、そなたにかかっておる!」
(やめてぇぇぇ!そんな期待しないでぇぇぇ!俺、ただの農民なんだってばぁぁぁ!)
アルヴァンが小声で呟く。
「……やはり只者ではないな、土の勇者」
セレーネは真剣な眼差しで見つめる。
「大地の声を聞く力……学術的にも前例がありません」
リュシアンはニヤリと笑う。
「面白ぇ。次の戦いでも期待してるぜ」
クラリスは祈るように微笑む。
「土の勇者様……どうか私たちを導いてください」
(やめろぉぉぉ!みんな自分の力をもっと信用してぇぇぇ!俺を追い詰めないでぇぇぇ!)
祝宴の最中、王国の重臣たちが次々とノインに近づいてきた。
「ぜひ我が領地に来てください!土壌改良の奇跡を!」
「農業の神として祀らせていただきたい!」
「いや、軍事利用だ!地形操作で敵軍を封じ込められる!」
(ちょ、待て待て待て!俺、ただの畑仕事が本業ですから。土壌改良は鍬と肥料でコツコツと!奇跡じゃないんだよ?)
ノインは必死に余裕の笑顔を作り、意味深に答える。
「……大地の導きのもとに、いずれは……」
(うわぁぁぁ!また適当なこと言っちゃった!これ、絶対あとから首締まる伏線だってぇぇぇ!)
こうしてノインは「大地を操る奇跡の勇者」として喝采を浴び、
その期待を一身に背負うこととなった。
だがその期待は、彼のハッタリをさらに膨らませ、逃げ場をなくしていく。
(あああああ!もう無理だぁぁぁ!次こそバレる!絶対バレる!)
――だが、奇妙なことに
ノインのハッタリは、なぜか次々と「現実」として形を取り始めるのだった。
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