第3話 大地の声
森を抜けた勇者一行は、小さな農村にたどり着く。
そこはノインにとって懐かしい光景――畑、納屋、干し草の匂い。
しかし、村の空気は重苦しかった。
「魔物が夜な夜な現れて、家畜をさらっていくんです……」
村長が震える声で訴える。
「どうか勇者様方、我らをお救いください!」
アルヴァンが剣を鳴らし、胸を張る。
「任せろ。勇者の名にかけて、この村を守ってみせる!」
セレーネも頷く。
「魔法で結界を張れば、夜襲にも対応できます」
クラリスは祈りを捧げ、リュシアンは軽口を叩く。
「ま、俺たちが来たからには安心しな。魔物なんざ一晩で片付けてやる」
そして、全員の視線がノインに集まった。
「……土の勇者様は、どのように?」
村長の問いに、ノインは大仰に腕を組み瞑目する。
「……大地はすべてを知っている。魔物の足跡も、息遣いも……な」
(やっべぇ!何も考えてないのに急に振るんだもん村長!どうする俺!?ここが今回の勝負どころと見た!!)
ノインは村の畑に力強く歩み寄り、土をひと握りすくった。
そして手のひらの土を意味ありげに凝視する。
「……この湿り気、この温度、含まれるマナ……奴らは北の森から来る」
(適当に言ったぁぁぁ!ただの土って俺が誰よりも知っているのに!でも勇者っぽく聞こえたよね!?)
村人たちがざわめいた。
「す、すごい……!土を見ただけで魔物の居場所が……!」
「やはり勇者様だ!」
(えぇぇぇ!?信じた!?マジで!?)
アルヴァンが鼻を鳴らす。
「……ふん、土いじりなどで分かるものか」
だがその直後、村の少年が駆け込んできた。
「村長!北の森で魔物を見たって!」
場は凍りつく。そして全員の視線が再びノインに。
「……やはりな」(俺が一番驚いてるんですけど!)
ノインはゆっくりと立ち上がり、腕を広げた。
「大地は嘘をつかぬ」(今この瞬間、俺が嘘ついてるんですけど!)
村人たちは歓声を上げ、ノインを「大地の導き手」と讃えた。
――その夜。
勇者一行は村の外れで魔物を待ち伏せすることになった。
アルヴァンたちは武器を構え、緊張感に包まれる。
一方ノインは――。
(やっべぇ!今度こそ戦わなきゃダメだろ!?どうする!?俺、剣なんかまともに振れないぞ!?)
やがて、森の闇から魔物の群れが現れた。
牙をむき、村へと突進してくる。
「来るぞ!」アルヴァンが叫び、仲間たちが迎撃に動く。
ノインは必死に考えた。(なにか……なにかハッタリで切り抜ける方法は……)
その時、足元の畑の
ノインはおもわず叫ぶ!
「大地よ、今ここに隆起せよ!」
(農作業で培った右脚の筋力たちよ、今ここに顕現せよ!)
ノインは持てる力のすべてを込め畝を蹴りとばした。
すると土が崩れ、偶然にも魔物の足元に転がり込み、数匹が転倒した。
「おおっ!土の勇者様が地形を操った!」
「すごい!本当に大地が応えている!」
(いやいやいや!ただ蹴っただけで、そんなん言われたら、しのびない気持ちになるからぁぁぁッ)
だが仲間たちも驚いていた。
「……なるほど、地形を利用する戦術か」アルヴァンが感心したように呟く。
(アルヴァンさん意外とフシアナ!?でも訂正もできねぇぇぇ!!)
結局、仲間たちが魔物を殲滅し、村は救われた。
村人たちは涙を流し、ノインに感謝を捧げる。
「土の勇者様……あなたのおかげで村は救われました!」
ノインは胸を張り、威風堂々と答えた。
「……大地は常に人を見守っている。私はただ、その声を伝えただけだ」
(伝えるも何も、そんな声、一度も聞いたことないってのに……これからどうすんだ俺ぇぇぇ!)
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