第25話 返事を伝えよう

 俺達はなんとかクソデカパフェを綺麗に食べきった。

 なんとか、とは言うが思っていたよりはスムーズに食べきることができた。

 俺もある程度は戦力になれたと言えるだろう。



 その後は腹ごなしもかねてゲームセンターに行った。

 場所は映画館の下なので一度戻ることになる。映画の半券で2プレイ無料になるやつだ。


「ほなみんってクレーンゲーム得意?」

「……いや、あんまやったことないなぁ」


 狙うのはもちろんプリクルのグッズ。

 二人で何度も何度も試して、ぬいぐるみを二つゲットした。

 結局2プレイどころではなかったけど。


「ほなみんの分もげっとー!」

「うおー!」

「……ちなみにこれ何プレイ目だっけ?」

「……あんま考えない方がいいかもね」



 ◇



 その後もまだ少し時間があったのでカラオケに入った。

 プリクルの映画の主題歌も検索したら出てきた。


 うろ覚えの主題歌を二人で熱唱する。


「輝く~……? ん……? Cメロわかんない!」

「いや、もう少しで戻ってくる…………サビ! 今だ!」

「「ときめき加速するハートビート! 君とならどこまでも飛べるよぉぉ~!」」


 他にもプリクルアニメの曲とか、俺達の好きな曲を時間まで歌った。

 外に出るともう暗くなり始めている。


「わ、そろそろ帰んないと怒られるかも」

「おっけー。じゃ、ちょっと急ごうか」



 ◇



 電車で二人並んで座って最寄り駅まで帰る。


「お母さんが夕食までに帰ってこいって言うんだよね」

「いいお母さんじゃない? 心配してるんでしょ。うちは大体いないから」

「どーかなー。まだ遊びたかったなわたしは」

「そうだね」


 頷いてから思う。今日はあっという間だったな。


 楽しかった。今日一日。


(きっと桃瀬さんのおかげだろうな)


 俺は自分に人を楽しませるスキルがあるとはあまり思わない。

 けど桃瀬さんの周りにはいつも人がいる。今日楽しかったのも、きっと桃瀬さんのおかげだ。


 だから、この後までしっかり。


「返事、駅に着いたらで平気?」

「……えっと」


 桃瀬さんが俺の目を探るように見つめた。

 少ししてから、俺の服を指先でつまむ。


「……ちょっとだけ二人で歩かない?」



 ◇



 桃瀬さんの家の方向に二人で歩いていた。

 外はもう暗いし、送っていった方がいい。


「この辺ってほなみん通ったことある?」

「いや、こっちはあまり来たことないな。反対側だから」


 最寄り駅は同じだけど、桃瀬さんとこの辺で会ったのは先日駅のホームで会った時が初めてだ。やっぱり行動範囲は別のようである。


 途中で中学校の前を通って、桃瀬さんが「あ」と校舎を指さした。


「わたしの中学ここなんだよ。ほなみんは向こうの中学だよね。……そういえば有名な人いるって聞いたなぁ」

「有名?」

「うん。昔テレビ出てた天才とかなんとか……なんだっけ」


 ミオのことだなとすぐにわかる。


「……いたかもね」

「知らなそうな反応ですね」

「いやいや、知ってたよ流石に」


 知ってるどころじゃない。隣に住んでるし。


「たしかにほなみん、そういう人あんまり興味なさそうだもんね」

「……そう?」


 意外な事を言われて思わず呟く。


「うん。ミーハーっぽくはないというか……誰に対してもあまり態度が変わらない気がする」


 普段はそうかもしれない。

 変に態度が変わらないよう意識はしてる。

 同じ中学の奴から見たら、ありえねえよと言われるかもしれないけど。


「そういえばほなみん?」


 ちょっと返答に困っていたら、桃瀬さんが振り向いてきた。


「デートの約束した時の事って……覚えてないんだよね?」

「……うっ。ごめん……」


 今日のデートは屋上に桃瀬さんから呼び出されて、約束をしてたと伝えられたのだ。だから実を言うと、約束をした瞬間のことは覚えていない。 


「覚えてないんだ。屋上とか、保健室とか」

「ごめん……俺、ちなみに何したの?」

「やっぱそうだよね。丁度いいから教えてあげよっか」

「……じゃあ、お願いします」


 何をやらかしたのか知っておかないと、ミオに誤魔化されないとも限らない。


「じゃ、一回そこの公園に寄り道します!」

「はい。……ちなみに門限は?」

「少しならセーフ!」


 人のいない公園に入って、並んでベンチに座った。

 灯かりのない夜の公園なんて入るのは初めてだ。


「ほなみんは覚えてないと思うけど、わたしにしたことが二つあって」

「……覚えてなくてすみません」

「一個目はこれです。ほなみん、手を広げてください」

「……手? はい」


 言われた通りに手を広げた瞬間、桃瀬さんがゆっくりもたれかかってきて、俺の手の中にすっぽりと収まった。抱き合う恰好になる。


「え」

「……これほなみんがやったんだよ?」


 耳元で声がした。責めるような言葉なのに、甘やかすような声をしてる。


「ほら、思い出すかもしれないから、ちゃんとハグしてください」


 言われた通りに背中に手を回してみる。

 まさかそんなわけ……と思ったけど、でもたしかに既視感がある。


「びっくりしたんだからね? 屋上でみんないなくなった途端、いきなりほなみんが抱きしめてきたから。わたしも混乱しちゃって、ほなみんにバカとか言っちゃって」

「……ああ! だからバカって言われたのか……!」


 ここに来て謎が解けた。それならバカと言われても仕方ない。告白の後に返事も言わず抱きしめてくるなんて、どういう心理状況なのかわけわからないだろうし。


「……本当にすみません」

「平気だよ。嫌じゃないから。……次、これ」


 今度は手をほどいて、仰向けに倒れてきた。

 そのまま膝の上に頭を乗せてくる。


「保健室で膝枕された」

「……な、なぜ」


 どうしてそうなったのか、全くわからない。

 ハグよりはましな気もするけど、保健室でやることじゃない。

 行き場もなく浮いていた手に小指が絡められる。


「この時デート誘ったんだよ。小指結んで、約束して。ほなみんが変なことするから、逆に勇気でた」

「……たしかに、変なことだ」


 とんでもないことをしている。

 桃瀬さんが優しいから許してもらえているけど、他の人だったらどうなっていたのか?


 戦慄に背筋を冷やしていたら、桃瀬さんは体を起こした。


「っと……こんな感じで。わたしはほなみんに弄ばれてたんだよね」

「あの、本当にごめんなさい」

「いいよ。だって嫌じゃなかった。……今のだってさ。わたしは下心でやってるんだよ。好きなひととのデートを引き延ばせて、くっついてもいいかな、っていう気持ちもあって」


 小さく首を傾げた。


「――ほなみん。今日、どきどきした?」


 そんなの、聞かれるまでもなく。


「それは、もう」

「ありがと。じゃあ……返事、聞かせてほしいな」


 見つめ合う。

 桃瀬さんの瞳の中の期待と不安に気づいて、心臓が大きく脈を打った。


 今から俺は大それたことを言おうとしている。

 どっちにしたって、関係性が変わってしまう言葉だ。


 息を呑む。


 返事は真剣に考えた。

 考えたからこそ、口を開くことに躊躇してしまう。どういう風に伝えるのが一番なんだろう? 言葉を少しでもまとめようとする。待たせるわけにはいかない。


 けど、ふと呼吸を整えるために視線を外した。この公園の入り口近くには街頭が立っている。小さい灯りだ。

 そこに吸い寄せられるように視線を向けて――を見た。



「……え?」



 直前まで考えていた台詞が霧散する。


 なぜ?


 視線が吸い込まれた先で硬直した。


 なんでここにいる?


 公園の入り口にある街頭の下。


 どうあってもいられるはずがないのに。


 乏しい灯りに浮かび上がっている輪郭が彼女にしか見えない。




「ミオ?」








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