第24話 パフェを食べよう

「――はー面白かった……!」

「よかった……めちゃよかった……!」


 映画館を出て、どちらともなく立ち止まって顔を見合わせる。

 非常にいい映画だった。求めていた物がしっかりあって満たされた。


 明るい雰囲気の始まりから、最終的にはしっかり盛り上がる展開へ。

 俺達が見たかったプリクルがそこにあった。


 桃瀬さんがあふれ出るテンションからぴょんぴょん飛び跳ねている。


「ヒカリちゃんの特殊フォームよかったよぉ……!」 

「激熱だったね……!」

「ルナちゃんがクールなのにヒカリちゃん大好きなのも神……!」


 それからひとしきり感想を言い合っていたが、途中でこの後の予定を思い出す。


「そういえば桃瀬さん、この近くで行きたいお店があるんだっけ?」

「あ、うん! そうなんだ! ほなみんがよければだけど……」

「もちろん平気だよ」


 ぱっと桃瀬さんの顔が明るくなった。


「じゃ、行こ! ずっと食べてみたかったお店があるの!」



 ◇



 そして辿り着いたのはファンシーな雰囲気のお店であった。

 そこそこの人が並んでいる。

 どうやらスイーツのお店らしい。


 ただ、ようやく入れた店内を眺めて目を瞠った。


「あ、あれは……」

「ここのパフェはね。めっちゃデカいことで有名なんだよ」


 本当にめっちゃデカい。


 店内に入っているお客さんたちのテーブルの上には、巨大なパフェが乗っている。他のお客さんの頼んだ物とか、マナーとしてはあまり見ない方がいいだろうけど、ここは無理だ。デカすぎてどうあがいても視界に入る。


「ほなみん、どの味がいい?」

「……えっ」


 正直、舐めてた。

 パフェが有名なお店だし、かなり大きいよ、というのも聞いていた。

 しかしあれを一人で食うのは確実に無理である。


「お、俺はこのチビ盛りパフェにしようかな……」

「違うよーほなみーん。ここはデカ盛りで一緒に食べるんだよー」


 じーっと下から見上げられる。なるほど。


 たしかに周りを見るとだいたい一つのテーブルに一個のクソデカパフェだ。ここの楽しみ方はクソデカパフェを頼んで「でっか!」とか言いながらみんなでシェアして食べることにもあるのだろう。


「……だとしてもデカくない?」

「そう? ほなみんいたら平気だと思うけどなー」


 いつの間に俺の胃はそんな信頼を得ていたんだ。


「でもさっきポップコーンめっちゃ食べさせられたけど」

「……あ!」


 今気づいたみたいな顔をしてる。

 しかしその瞬間、ちょうど店内に案内されてしまった。

 席についた桃瀬さんが両手で顔を覆っている。


「……大丈夫……ほなみんの分もわたしが食べるから……」

「……いや、そこまでするなら小さい方でも……」

「だめだよほなみん! 小さいのなら別のお店でも食べれるじゃん? だからここはデカ盛り一択なんだよ」


 そう言われると一理ある。

 挑戦してみるかという気になってきた。別に食べてみたら意外といけるかもしれないわけだし。


「……でもちなみに言うとね、量の心配はしてないの」

「え?」


 じゃあなんで手で顔を覆ったりなんかしてるのか。


「えっと、カロリーがちょこっとだけ気になるかなーと……」


 か細い声が、隠してる手の間から漏れ出てくる。


 ……これは俺が気合をいれて食べなければならないようですね。



 ◇



 桃瀬さんと相談した結果、フルーツ盛りのパフェを選ぶことになった。

 スイーツはとても美味しいが、甘さ一辺倒ではどうしても飽きが来る。

 フルーツの酸味を挟みながら食べた方がきっと食べやすいはずだ。


 注文をして緊張の面持ちで待つこと数分。


「――はいお待ちぃ! デカ盛りパフェフルーツ増しでぇす!」


 威勢のいい掛け声と共にどんっとクソデカパフェがテーブルに置かれる。ラーメン屋?


(……でっか!)


 目の前にそびえる威容に気圧される。

 様々なクリームにジェラートにコーンフレークに後はなんだろう? 色んな物が層になって逆さになった傘のように膨らんでいる。その上にはこれまた豪勢に乗せられたフルーツ。


(これ、食べきれるのか……?)


 割と現実的な不安が出てきて冷や汗が流れる。


「わー! ほんとにおっきいー……!」


 しかし桃瀬さんは心配なんて微塵もなく目を輝かせていた。


「ほなみんほなみん」

「ん?」

「こっち来てこっち来て!」


 そんな桃瀬さんがぽんぽんと自分の隣の席を手でたたく。

 何かと思って席を立って歩いていくと、内側にスマホを構えた桃瀬さんが「いぇー」と言ってシャッターを切った。


「わ。写真撮ってたのか」

「うん……ほなみんとお出かけするの初めてじゃん? だからいっぱい撮っておかないとなー……って」


 なるほど。そんなことでよければいくらでも映りますとも。

 でも俺なんかでカメラロール埋めちゃったりしていいのか?

 可愛いカメラロールの中に急に俺が出てきたら萎えたりしない?


「ほなみんチーズ!」

「は、はい!」


 面接に行く人みたいな声が出てしまって、桃瀬さんが吹き出した。


「ぷふ! な、なんでそんな緊張してんのー?」

「い、いや写真とか普段撮られないから慣れなくて……」

「じゃあここで慣れよ? ほなみんが食べてるとこ撮っていい?」

「それはいいけど……」


 俺の食事風景に需要ある?

 お前がこんなとこで食うなってクレーム来たりしない?


(いけない……謎の自虐が……!)


 お洒落な店に行かなすぎて思考回路がおかしくなっている。

 今は目の前のクソデカパフェを無事食いきるのが優先だ。こんなこと考えてる暇はないのだ。振り切るためにも、一度立ち上がって一緒に来たクソデカスプーンで取り分け皿に自分の分をすくい取る。


「じゃ、いただきます」

「わたしも! いただきまーす!」


 備え付けの小さいスプーンでクリームの部分を食べてみる。

 すると、思ってたよりも食べやすく感じた。


(甘さ控えめなのか……?)


 口に入るととろけるクリーム。でも、想像よりいい意味であっさりしていて食べやすい。他のクッキーやフルーツと合わせると、結構ぱくぱくと食べることができる。


(なるほど……だからこんなにクソデカでも人気なのか)


 ただインパクトを出すためにクソデカにしてるわけじゃない。

 ちゃんと美味しく食べてもらえるよう工夫をしてるわけだ。

 ひょいひょい口へ運びながら、この店の試行錯誤に頭が下がる思いであった。


 なんて思っていたら、目の前でぱしゃりと音が鳴る。

 スマホを持った桃瀬さんがにまーっと頬を緩めて俺を眺めていた。


「美味し?」


 あ、やべ。何も言わずにずっと食べてた。


「お、美味しいです」

「ほなみんじーっと考えながら食べてるからつい見ちゃった」


 そう言われて猛省する。

 相手がいるのになんで黙食してるんだ……!


「ご……ごめん。なんか集中して食べちゃった」

「平気だよ。けど一個お願いしてもいい?」

「なんなりと……」


 普段来ないような店に来たからか、ずっと行動の選択肢を間違えている気がしてならない。どことなく浮ついた気分だ。俺にできるお詫びならなんなりとさせていただこう。


 桃瀬さんがスプーンにパフェの一部をすくって、俺に差し出してきた。


「あーん、ってやつ、やりたい」

「え」

「わたしがあーんって言ったら、ほなみんがお口を開けるの。あー、って」


 それはわかるけど。


「……さっきもポップコーン食べさせられなかった?」

「え。たしかに。なんだろ……人に食べさせるの好きなのかな」


 不思議な感覚だ。でも思い返してみると桃瀬さんが友達に何かを食べさせてるシーンを見たことはあったかもしれない。


「はい、あーん」

「え……あー」


 俺の口の中にパフェが突っ込まれた。

 しかも口を閉じた瞬間にスマホのシャッターを切っていた。

 俺とスマホの画面を交互に見て、口元を緩めている。


「ほなみん、えっと……反対もいい?」

「反対?」

「ほなみんがわたしにするの」


 驚いてしまったが、桃瀬さんがやりたいならやろう。

 これはお詫びでもあるのだ。


「……あーん……」

「あー……」


 ということで俺は桃瀬さんの小さい口にスプーンを差し込んだ。

 その様子は桃瀬さんのスマホにばっちりと動画で収められている。


「えへへ……甘いね……」

「そ、そうだね」


(いいのかな。こんな罪深い行いをしてしまって)


 口に手を当ててにまにま相好を崩している桃瀬さんを見ながら、今度は自分でパフェをすくって食べた。


 さっき甘さ控えめだとか言ったけど、めちゃくちゃ甘い。


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