エピローグ

第17話 スモッグの彼方へ

 いつの間にか木の葉が色づく季節になっていた。


 白のジーンズの上下に黒Tシャツのこの恰好も……墓参には少し肌寒く、懐の中のの温かさを感じてしまう。


「悪いな、桂さん……撃ってたら急に会いたくなって来ちまった……あれからオレも射撃練習の鬼だぜ! この間なんか『お前は署の弾をすべて撃ち尽くすつもりか!! 』って装備課で文句言われた。お墓参りに撃ったばかりの拳銃携帯なんて不謹慎だけど……許してくれ……仕事中なんでな」


 桂さんが眠るのは都内の合祀墓ごうしぼだ。色んな方のお墓だからなのか……まだ瑞々しい生花が供えられていた。

 軽く掃除をした後、オレはロウソクから火を移した線香と持って来た花をお供えし、手を合わせた。


 一陣の風が線香の煙をたなびかせ、色づいた葉が地面に舞い落ちる。

 煙の行方を見上げると……

 “雲は無いのに”スモッグでくぐもったこの世界の空へと溶けていく……


『横からかすめて吸うのが私は好きなの』


 不意に桂さんの言葉が思い出されて、オレは胸ポケットから封を切ったままにしているセブンスターとブックマッチを取り出して火を点け、ふかしてみる。


「ふかしタバコじゃ気は起きないか……」


 ため息とともに煙を吐き出し、もう少し強く吸うと、煙が肺に入って……“私”はむせてしまう。


「はは、ざまあねえな! こんなオレだけど……この世界で生きていくよ……とは言っても……オレもいつられるかわかんねえ……ただ、あの“パンサー”の殺気は判るから……一矢報いるよ。ホントは桂さんを殺したヤツをぶちのめしたいけどな! 」


「いけねえ! 墓前で吐く言葉じゃねえな! 」と頭を振って、オレはお墓の横へ並ぶ様に腰を下ろす。


 目の前に、腕の中に、桂さんの事切れるまで光景が浮かぶ。オレの胸が……銃身の様に熱くなり、オレはサングラスを掛ける。


「いつかオレも……ここに納まるからよ! 待っててくれや」


 煙が……スモッグが……目に沁みて……


 オレは人差し指をサングラスの下に差し込み


 を拭った。


「あんまり油売ってるとドヤされるからよ! そろそろ行くわ」


 折りたたんでいた長い脚を伸ばし、立ち上がってジーパンのケツを払い、汚れた空へ拳を突き上げる。


 そう! 今、この空の下に居るのは“高層ビルに通勤しているOLの私”では無い!  淀橋署の刑事たるオレだ!


 そしてオレは今日も犯人ホシを追い……明日を追って……走り続けている。






          昭和デカ -死に染まる手-     完



             


            。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


            この作品における人物、

            事件その他の設定は、

            すべてフィクションで

            あります。


            。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。







     

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