第三話 クロノが想う家族の形
「……親との
廃教会へと向かう途中。
クロノがぽつりと、そんなことを口にしやした。
見上げると、ぺたりと耳を寝かせた女性の顔。
「あたしだって、
もちろん、いまの
事実として、家族というのはそういうものだろう。
どんなに悪い親も、逆によい親も、兄弟も姉妹も、自分を中心に据えて考えるとき、そういうものとしか思えない。
私にゃ兄弟はいない。
が、少なくとも親がどうしようもないものだと気が付くまで……認めるまで、随分と時間がかかったのは覚えている。
「あたしたちは無条件で親を味方だと思って産まれてくるから。その真偽とはともかく。だから、ギャップで苦しむところがあるのよね。そういう意味で、あの子たちはほっとけない」
憐れみではなく。
慈悲でもなく。
まして
ただまっすぐに、この面倒見のいい狐のお姉さんは、子ども達を案じているのだった。
「あの子たちが辛いのか、苦しいのか、もっと別の感情を持っているのか、そりゃあたしなんかにはわかんないわよ。はかろうってほうが
オー、なんて素晴らしい精神性。
イヤ、これは茶化しているんじゃあない。
マジで感じ入っているわけです。
もしも前世で、ここまで肩入れしてくれる誰かがいたのなら、私もまた違った道を歩んでいただろうとわかるので。
さて、話しているうちに、町の
つまり、このあたりに兄弟の家があるはずで――
「なんで逃げなかったっ」
責めるような声音。
二人して、ハッと視線を向ければ、そこに件の兄弟が寄り添って立っていた。
彼らは
初めて会ったときは気が付かなかったが、服はあちこち汚れており、剥き出しの肌は傷だらけ、頬には泥がついている。
背後には、本当に粗末な
生活の苦労が忍ばれて……。
「ひっ、生首」
弟のほうが私に驚いた。
マァ、珍しいでしょうからねぇ、身体無しデュラハン。
「落ち着け、あれはあいつらじゃない。話が出てきてるだろ?」
「そ、そうだねおにいちゃん……」
兄に
震えながら告げる。
「逃げてよ」
「逃げないなら……助けてよ」
ふたりが言った。
助けて?
「それは、誰から? いなくなったお父さんから守って欲しいってこと? やっぱり嘘つかれて、ひどい目に遭っていて――」
「ちがうよっ」
姐さんの問いかけを、兄弟は大げで
彼らの瞳に、焦燥が、悲しみが、嘆きが宿り、いまこの瞬間にも溢れかえりそうになる。
「おとーさんはほら吹きだけど、うそつきじゃなかった! だって、ほんとうのこと言ったから、殺されちゃったんだ!」
ピクリと、私の頭を持っているクロノの、長い爪が動いた。
彼らの言葉に衝撃を受けたから……じゃあない。
同じように私も異常を察知していたんだ、間違いねぇ。
周囲から、ガサゴソと音がする。
それは、心音の聞こえない動体から発せられており。
「バケモノに、変られちゃったんだ……!」
「ねぇ、おとーさんを、助けてよ……!」
ふたりが痛切に訴えたとき、空が
日が暮れる。
夜が来る。
そして、〝やつら〟が這い出してきた。
『――――』
廃教会からあふれ出したのは、悍ましいもの。
かつて人であり、最早ひとではないバケモノ。
腐り堕ちた身体。なお止まることの出来ない
すなわちそれは。
「――ゾンビ」
三十体を超える歩く死者が、こちらへと、迫る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます