第一話を構想するまでの思考

 ここまで書いてきたことの他にも、細々ぼんやりと考えていたことが堆積して形を成してきた今日この頃。

 ここらで一度、本文をどう書くか、ということにも触れてみたい。


 当話では、例として第一話について。


 そも第一話がもっとも重要だというのは、多くの創作論で語られている。それどころか「書き出し」だけをテーマにした一冊すら発売されているくらいだ。

 これの出来上がり次第で、第二話以降も読んでもらえるか否かが決まってくるので、非常に神経質になる部分である。


 ではさっそく、どんな内容にするか。

 端的に言うと、「期待に応える」と「面白い」の二つが必要だというのが筆者の持論だ。


 まず、「期待に応える」とはどういうことか。

 言い換えると、「読む前から内容を予想できる、特定の内容を要望させる」要素であると筆者は考えている。


 読者というのは意識的にしろ無意識にしろ、読む前から先の展開を「こんな話なんだろうな」とある程度予想しているものだ。その予想に内容が合致すれば安心や満足が得られるし、あまりに外れてしまうとストレスを感じる。

 第一話を読み始める時点では、その材料がタイトルやキャッチコピーやタグやらになるだろう。

 つまり必要なのは世に言うところのってやつではないか。


 実際に今作で考えてみると、「日本に転生したらTCG化した自分が不遇評価を受けていた元魔王」という感じのタイトルを予定している。

 改めて見てみると、そっくりそのまま第一話のあらすじに使えそうだな。第一話では自身がTCGになってることに驚くだけで、世間のクソカード扱いにキレるのは第二話に持ち越してもいいかもしれない。あとは舞台が日本なのと、主人公が転生者ってことも示しておきたい。SFジャンルってのも明確にしたいな。

 うん、出すべき情報が揃ってきた。


 それにしても、こう考えていると、転生ものみたいな人気ジャンルの強さがわかってくる。

 ある程度テンプレートみたいなのが共通認識として確立しているのだ。テンプレに沿って書かれた作品が多いのは、何も手抜きではない。長文タイトルで読者の「期待」を誘導した上で、「こんなのを期待してるんでしょう? わかっていますよ。この作品はあなたを理解して期待に応えますよ」というメッセージを発していたのだ……というのが、筆者なりの理解である。


 ただし、タイトル回収だとかテンプレな書き出しだとかで固定読者を捕まえられるかと言えば、必ずしもそうとは言えないだろう。

 期待通りを意識したとしても、逆に「先の展開がわかり切っててつまらない」と見放される危険だってある。あくまでも「面白い」書き方をしなくてはならない。


 面白い。

 たったの三文字、五音であるが実現は至難の業だ。

 ここでは第一話に限定したうえで、先述した「タイトル回収」という目印を立てることで、上手くやれないか試行してみるものとする。


 まずもって「面白い第一話」の最重要は、最初の第一行である。

 もう少し範囲を広げようか。

 カクヨムには「ちょい読み」機能があって、ページを開くことなく書き出し部分だけサンプル表示することができる。どうやらエピソードの字数によって変わるようだが、ココに表示される程度の範疇で「面白い」と思わせるよう意識するのだ。


 簡単に言うな、という話であるが、実は今作に限っては悩む必要がなかった。

 おわかりいただけるだろうか?

 主人公の項。中学一年生に設定した理由を見てほしい。


 ……ついこの間までランドセルを背負っていた背中。


 この表現を、そのまま冒頭に使うのである。

 真面目な話、名案だ。

 たったの一文で、主人公の年齢だけでなく、舞台が「ランドセルを使う文化圏=現代日本風」だということまで説明できる。最初の一行でイメージできる範囲が広く深くなれば、それだけ読者の没入感も高まって「面白い」と印象付けることが出来るはずだ。


 もっと発展させよう。


 ……ついこの間までランドセルを背負っていた背中で、新品の通学鞄が躍る。


 おお! 「新品の通学鞄」という六文字で、現在通っている中学の伏線に加えて「入学したて=4~5月」と季節まで暗示できたではないか。躍動感も感じられてなお良し。

 五七五にすれば俳句としても完成しそうなくらい、字数あたりの情報コスパに優れている。

 一昔前ならランドセルの色で性別も断定できたのだが、時代設定がレトロになるから却下だな。


 さあ、ここから二行目、三行目と膨らませていこう。

 どうやら主人公が通学鞄を背負って走ってる場面っぽいから、そのままパルクールにつなげてみようか。現代アクション異能バトル部門ってことも意識してな。

 自然と街並みを描写できるから、SFっぽさを演出できるだろう。

 大人から叱られても無視するか、人目があるところでは普通に歩くのか、主人公の性格もハッキリさせられる。

 でもって、ゴール地点はゲーム店一択だな。これでヒロインであるお姉さんも登場させられるし、カードゲームとのファーストコンタクトにもつなげられる。

 

 と、このくらいでキリの良い文字数に納まるんじゃないかな、と経験則で判断。

 筋書きが定まったところで、タイトル回収できてるか確認してみると……ふむ。カードゲームが描写されるのが遅いか? 読者が期待するのは、パルクールよりもTCGだろう。

 パルクールのシーンは控えめに。それか、カードを実体化させる技術の伏線として使うってソリッドビジョンみたいなのを描写する手もあるか。

 転生ついては、ゲームの紹介と一緒にやればいいだろう。初めて見たゲームの内容が前世と酷似していることに気付いて驚愕! からの第二話へ続くってな感じでクリフハンガーにするか。


 とまあ、思考を言語化すると、こんな感じになる。

 あとはプロットとして整理して、続きも考えて、伏線の不足とか論理破綻とかがないか確認して、大丈夫となったら書き始めることになるかと思う。


 カクヨムコンまで、あと四十日くらい。

 余裕があれば、試作として短編を上げてもいいかもしれない。

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