第4話 仲間と餞

王の間に連行されたレイドは、冷や汗でベタベタになった手で勇者の剣を握り、不安に押しつぶされそうな心持ちだった。


レイドの両脇には、屈強な兵士が控えており、逃げ出そうものなら、腰の骨を砕かれかねないほどの体格差がある。

視線を上げると、豪華な装飾をあつらえた玉座に、ふんぞり返る王の姿が。


短い足を組みながら、肘掛けに体を預け、まるで汚いものでも見るような王の視線に、小心者のレイドは身が縮む。


「あの……、これは一体……?」


レイドは、おそるおそる現状を尋ねるが、誰一人として、レイドに優しい者はいなかった。

両手で持った悪趣味な勇者の剣が、レイドの震えに連動して、カタカタと音を立てる。


「魔王が復活したのは知っているな?」


ようやく口を開いた王は、気怠そうにレイドに問うが、レイドは顔を青くしたまま、半笑いで——「へぇ……」と情けない声を上げる。


ふんっ、と鼻を鳴らしたアキレス王は、


「魔王を倒せ!その剣で!行けッ!!」


と、適当な説明とおざなりな命令を与え、出入り口の巨大な扉を指差す。


「へ、へぇ……」


現状に納得のいかないレイドだったが、この気まずい空間から逃げ出せるならと、王の間を立ち去ろうと歩き出す。


巨大な扉の前に立ったレイドは、どう開けたものかと困惑し、とりあえず、取っ手と思わしき部分に手を掛け、力の限り引っ張った。


レイドが魔動式の扉と悪戦苦闘している間に、アキレス王に宰相が何かを耳打ちする。

宰相のヒゲを鬱陶しげに手で払った王は、


「待て!勇者よ!」


と短い腕を突き出し、四苦八苦するレイドを制止する。

大粒の汗をかいたレイドは、息を切らしながら王の声に振り返った。


「仲間を募った!良き戦友として、共に戦うが良い……」


そう言うと王は、手を振り上げて合図を送る。

壁際に控えた演奏隊の盛大な音楽に合わせ、真っ赤なカーテンが開かれる。


どうやって演出しているのかわからないが、カーテンの奥が光に包まれ、頼もしそうな三人のシルエットが浮かび上がった。


右の女性に焦点を合わせ、明かりに照らされ、姿を見せる。


『類稀なる叡智で相手を翻弄し、しなやかな体躯で敵を穿つ!

弓引く姿は、百獣の獅子を相手獲った狩人のごとし!

チャーミングな耳に、可憐な瞳!』


「私は、エルフの狩人・リル!よろしくね!」


リルと名乗ったエルフの少女が、ガッツポーズをしながら、片足を愛らしく上げてポーズを決める。


続いて真ん中の精悍な男にスポットライトが当たった。


『情熱はマグマのように燃えたぎり、鍛え抜かれた肉体は岩の如し!

百戦錬磨の槍捌きで、有象無象を切り伏せる!

朱色の鎧は勝利の証!』


「俺は、貴族育ちの風来坊!エドガーだ!戦士だぜ!!」


エドガーと名乗った精悍なマッチョが、長い槍を振り回して構えをとった。


そして大トリはこの人!シルエットから、穏やかな笑顔に光が差す。


『清廉と高潔を兼ね備えた大聖女の生まれ変わり!

曇りなき眼で悪を見抜き!穏やかな笑顔で善を説く!

祈りの力で魔性を払い、癒しの力であなたをサポート!』


「聖女のエリスです。お見知り置きを……」


エリスと名乗ったローブ姿の聖女が、丁寧にお辞儀をする。


ようやく三人の姿が鮮明に現れたところで、背後から、パーン!と紙吹雪が飛び出した。


三人の決めポーズが華麗に決まり、豪華な音楽はフィナーレを迎える。


ビシッと決めた三人の『紹介文』から視線を上げた宰相は、王に『以上です』と耳打ちをした。


「さぁ、役者は揃った!行くのじゃ勇者一行よ!魔王を打ち倒し、この世界を救うのじゃ!」


魔王打倒の旅を高らかに命じ、アキレス王はレイドの足元に何かを放る。


床に跳ねて甲高い音を響かせたのは、たった一枚のジェニー硬貨だった。

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