4-2

「……は?」

「そういうことですよね!?」


 古和玖がぽかんと呆気に取られて顔をあげれば、奇はどう見ても恐怖の震えではない歓喜の震えを全身に顕にして、その整った顔を真夏の太陽も逃げ出さんばかりに眩しく輝かせていた。

 なんならずかずかと近寄ってきて、食い気味に古和玖の顔を覗き込む。


「そういうことですよね!?」

「ちょっ、近い! あとなんで二回言った!」

「大事なことだからと、貴方が答えてくれなかったからです。そういうことですよね!?」

「違う!」


 古和玖は全力で奇を押し返し、距離をとってから荒い息をつく。


「僕と、一緒にいたら……っ! 本当に、死ぬかもしれないって言ったんだよ!」

「……? いつそんなこと言ったんですか?」

「今!」


 心底不思議そうな顔で首を傾げる奇に、古和玖は本気で混乱する。

 なんで。

 どうしてだ、どうしてそんなに反応が薄いんだ、危機感が薄いんだ。

 普通逃げるだろ、怖れるだろう、死にたくないって思うだろう。


 だって、人間っていうのは死ぬ生き物だ。


 誰だって痛いのは嫌い、死ぬのは怖い。

 自分の大切な人が、死んでしまうのは怖い。

 当たり前だ。


――僕だって、本当は、本当は僕だって、死ぬのは怖い。


 なのに、なんで。



 どうして、と掠れた声で呟く古和玖に、奇は不思議そうな顔から真顔へ転じ、静かに凪いだ瞳で古和玖を見る。

「俺には、貴方と四六時中一緒にいればいつでも怪談に会えると聞こえました」

「だからその怪談の中に、人を襲ったり……っ中には、死に至るようなものがあるって言ったんだ! 僕と一緒にいたら、そういう危険な目に遭うんだぞ!」


 感情が昂って、泣きそうになる。

 頭の中が熱い。心臓が熱い。胸が苦しい。痛い、痛い、痛い。


 記憶が、痛い。

 感情が。


 痛いことが、痛い。


「自分の命を、何に懸けるかは勝手だ! でも……っ、そうやって、そんなに簡単に、命を捨てるな! まるでどうでもいいことみたいに、自分の命を雑に扱うのはやめろ!」


 知っているのか。

 死ぬのがどういうことか、命を失うのが、奪われるのがどういうことか。

 知らないんだ、きっと。

 知らないからそんなことが言える、そんな態度がとれる。


 他人なのに、これっきり関わることもない相手なのに、それが酷く腹が立つ。



 生きることが、痛い。

 どうしようもなく。


 だけど僕は、



 だから、僕は――


「死ぬって言うのは……死ぬっていうのは、その人のなにもかも全部、見えなくなって、聞こえなくなって、さわれなくなって、帰れなくなって、もう二度と戻ってこられないってことだぞ!」

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