2-2

 古和玖がぎょっとして見れば、波のような金髪が地面に乱れている。盛大に路面に投げ出された袖と羽織。

 うつぶせに倒れ、荒い息をする男。

「……え……大丈夫ですか?」

「すっ……すみません、そこの……っ……角、から……全力疾走っ、してきたもので……っ」

 だいぶガサガサと掠れた声ではあるが、聞き覚えがある。それにこんな目立つ金髪など、そうそういるものではない。

 一瞬で警戒を身に纏わせる古和玖だったが、一拍遅れて違和感がひっかかった。


――そこの角から?


 古和玖はひょいと顔を上げて、地面に倒れ伏した男が指指す方を見る。

 数メートル先に、曲がり角があるが……まさか。


「……体力なさすぎじゃないですか?」

「しっ……かた、ないでしょ、普段走るのなんか、面白……そうな怪談を、見つけた、ときくらいっ……あ、やばい、死ぬ」

「……」

 息も絶え絶えに、わりと切羽詰まった本気の声が漏れる。

 自称死にかけている男を、古和玖は冷めた目で見下ろした。赤い瞳を見抜かれたときはできれば二度と関わりたくないと思ったが、今は違う意味で関わりたくない。


「人を怪談扱いして追いかけてくるのは勝手ですけど、今僕は、この子の母親を一緒に探しに行くんですよ。できれば――」

「……ああー、いえ、違います」

 なんとか息を整えた男が、ゆらりと立ち上がった。目にも鮮やかな金糸がはらはらと肩から滑り落ちて、銀色の瞳がくるめいて見据える。


 古和玖の、目の前にいる少女を。


「……貴方」


 男の唇が、楽しそうに吊り上がる。



「随分素敵な顔ですね。手をどけて、もっとよく俺に見せてくれませんか?」

 それを聞いて、少女の手の端からちらりと覗いた真っ赤な唇も、同じように吊り上がった。

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