今カクヨムでこの文を読んでいる私へ

清水秋穂

今カクヨムでこの文を読んでいる私へ

これは今、この文を読んでいる私が書いた手紙です。


うまくいけば私は目覚めてすぐにこの文を読むことができるはずです。

そして、この文を読んでいるときに私が覚えている名前、性別、人生は全て偽のものになってると推測しています。


私は今世の中のすべてに絶望しました。

明日を生きていく勇気もなくて、でも死ぬ勇気もない。


私は自分の人格を殺すことにしました。


この手紙を読んでいるときにはもう覚えていないと思いますが、私はとある大学の大学院生で生物科学に関する研究をしていました。

その研究の過程で生まれた副産物ミリーテリを服薬することによって人工的に全般性記憶喪失を引き起こし別の新しい記憶を植え付けることができるはずです。

この成果は教授も気づいておらず一つしかない薬品をこれから服用するので、この薬が世の中出ることはありません。

しかし、私の推測によれば確かに私を殺すことができます。


おそらく目覚めた後の私はこの文を馬鹿らしいと考えるはずです。

ですがほかの人に話しかける前に聞いてください。


今周りにいる人は全員私と知り合いではありません。


私は自分の素性を完全に消すため、県をまたいで移動しました。

この街に私の知り合いは一人もおらず今知り合いだと思っている周囲の人間は、目覚めた後に見た景色から私の脳が反射的に作り上げた偽の記憶です。


目覚めた後の私は、世界五分前仮説という言葉を覚えているでしょうか。

その仮説のように、おそらく私の世界はこの文を読む直前に作られたものになっているはずです。


本題に入ります。


この文を読んだ後、絶対に過去の記憶を思い出そうとしないでください。


私は自分のことを消してしまいたいと本気で思っています。

私の人生は、環境は、全てが終わっていて、消えてほしいと本気で思います。

そんなものを自分から取り戻そうなどと決して思わないでください。


私は新しい私の生活場所として比較的治安のよい場所を選びました。

当面の生活にも困らないようしっかりと根回しをしています。


ここで、新しい人生を始めてください。

もう私のことを生き返らせようだなんて思わないでください。


これからの人生が素晴らしいものになることを心から願っています。


最期に、どこか近くにミリーテリの空き瓶が転がっているはずなので回収して処分してください。

この薬は今の生物科学界において非常に画期的なものになっています。

飲み残しが見つかった場合どう悪用されるかわかりません。


この文章もあなたが読んだ瞬間からゆっくりと時間をかけて消滅していきます。

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