金色の精霊獣
巻き上がる土煙と衝撃波からノヴァとメビウスを守るようにタラゼドが結界を張り、石柱に立つバエルは微動だにする事なく舞台を見つめ続ける。
(精霊獣とはいえ霊剣アビスの冷気で氷結するのは必然……それが刹那だとしても、捉えられれば粉砕させるのは難しくはない)
リオの技が始めからシンラの足を凍らせて割る為の布石となれば、その技自体が完全に成立せずとも十分だった。もちろんそれは間髪を入れず攻める事ができた場合の話、実際にやれるだけの力と技、そして仲間の動きを即座に理解し連携するだけの判断が求められるもの。
エルクリッド達はそれをやってのけた、その姿にバエルはふっと笑いながら腕を組み彼女らのアセスが一度戻ったのを確認しつつ、ルナールの方へと目を向ける。
(さて……これでルナールはあれを出さざるを得なくなったということになる、か。デミトリア様が仰っていた、金色の精霊獣を)
土煙が漂う中でゆらりと影が動き、刹那にフウガが飛び出てヤサカ達に迫る、が、それよりも素早く反応したリオが霊剣アビスの刃を首筋に突きつけ、刹那に頭を切り飛ばしてみせた。
頭が飛び跳ね身体が沈み、土煙が晴れたと同時に微動だにしなくなったシンラ共々二体の精霊獣が無残な姿を晒し出す。それを淡々とルナールはカードへと戻し、静かに首筋と腕から流れる血に染まる自身の手を見つめると、くすっと微笑む。
「ふふふ……ワシもずいぶん衰えたものだ、我ながら哀れとしか言いようがないな、っふふふ……」
俯きながらそう言ってゆらりと身体を前へと進めるルナールが魔力を滾らせるのをエルクリッド達は察して身構え、瞳孔を細くしたルナールが顔を上げ鋭い眼光を飛ばしながら自らの手で肩甲骨のカード入れからカードを引き抜き、刹那にそのカードが脈打ち大気を揺らす。
「我が化身たる精霊よ、愚かなる世界を見下し天上に立て……!」
逆巻く髪が九つの尾を描くように金に輝きルナールがカードを掲げ、閃光と共に妖艶なる四肢を持つ精霊獣が舞台に立ち揺らめく陽炎の如く煌めく金の毛を震わせ、静かに口を開く。
「これがワシの真の姿……
紫の帯飾りを纏うその精霊獣の声はルナールそのものであった。真の姿と言ってはいるが人の方のルナールは未だおり、だが瞳から光が消えてるという状態でいた。
何がどうなってるのかエルクリッド達は状況把握に戸惑うものの、察してかルナール自身が落ち着けと告げてから素性について自ら語る。
「ワシはかつて外法により人の身と精霊獣としての姿とに分かれた存在、どちらもワシ自身であるが今は獣の方に意識を集中させているということだ。その方が、力を出し切れるからの」
国盗り物語の金色の妖狐の話は風の国の歴史に刻まれたもの。今目の前にいるのはそれに出てくる生きる伝説そのもの、巨大ながらしなやかで麗しき肢体は見惚れる程に美しく、秘めたる力は恐ろしく残酷なものというのは間違いない。
本来の姿へ戻ったというべきルナールが九つの尾を揺らしながら一歩、また一歩と前へ出る。一瞬の間を挟みまず動いたのはヤサカだ。
真正面から向かって行くと見せかけて急速に切り返し右側へと回り込み切りかかりに行き、それに対しルナールはちらりと目を向け紫の火の玉を出現させるとそれが大きくなりヤサカを包み燃やす。
すぐにヤサカは身体を回転させ火を振り払うものの、僅かに残った火種からすぐに大きく燃え上がり始め、これにはシェダがすぐに支援に入る。
「ツール使用火除の腕輪!」
赤の腕輪が装着されヤサカの身体を燃やそうとしていた紫の火が消える。しかし時間にして十数秒ながらもヤサカの身体は火傷を何ヶ所も負うほどに傷つき、まだ様子見ながらもルナールの能力の恐ろしさにより一層エルクリッド達は警戒を強めた。
「まだ何か秘めてるって思うと油断できないね。セレッタ、なんとか行けるかな?」
「麗しのエルクリッドの期待に応えるのが僕の役目、ではありますが、容易くないのは間違いなさそうですね……!」
セレッタが全身に力を込めつつ蹄から水を噴き出して舞台を水浸しにし、それらを一度に操り大波として一気にルナールへと向かわせる。
逃げ場を完全に絶つ水量にものを言わせる渾身の水魔法にはルナールもほうと感心の声を漏らしつつも九つの尾を揺らし、背後に立つ人間のルナールが静かにカードを引き抜く。
「ワイルド発動、鳳凰の城郭……!」
ルナールの前方に一瞬赤い炎が走り、刹那に火柱がいくつも天へ伸びて連なり炎の壁を作り出す。それがセレッタの起こす波と激突し水蒸気となって相殺し辺りを包み込む。
その中をしなやかにルナールが駆け抜け追撃せんとするセレッタの目の前にぬっと現れると喉元に食らいつき、そのまま叩き伏せ爪を突き立て腹を切り裂き紫の炎を尾の先から放ち傷口から体内へ流し込む。
強烈な攻撃を受けセレッタが苦悶するも声を上げまいと堪え、それでいて一矢報いるべく水のトゲを放ってルナールを狙うも尾で弾かれ叶わずに倒されてしまう。
その反射をエルクリッドはまともに受けて体内から焼き尽くされるような激痛と身体を裂かれる傷とを負って血を飛ばし、力なく膝をついて倒れ咄嗟にリオが支えヤサカが前に出て護衛につく。
「エルクリッド、大丈夫ですか?」
「セレッタがやられちゃった、ね……ちょっと休まないとヤバい、かな」
膝をついて深呼吸を繰り返しながらヒーリングのカードをエルクリッドは使って回復に努め、その姿を見てリオは霊剣アビスを握る手に力を込めつつ気持ちを鎮めアビスをカードへ戻し、二枚のカードを引き抜き次のアセスを呼び出す。
「デュオサモン、ラン、リンドウ、頼みます!」
剣士ランとリンドウを呼び出し、早々に剣を抜く二人が左右へ分かれて走り出しルナールへと向かう。
続いてヤサカも態勢を整え終えて真っ向から切りにかかり、対するルナールは不敵な笑みを浮かべ受けて立つ構えをとった。
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