刃を連ねるが如く

 三方から迫る相手を前にルナールは左右のランとリンドウには尾を伸ばして貫かんとし、それを剣で防がれても力づくで舞台の外へと突き飛ばす。

 真正面から来るヤサカに対しては前足をかいて巻き起こす赤い粉塵を飛ばして包み込み、刹那にガチンと牙を鳴らして火花を起こし着火させ爆炎に包み込む。


「どうした、それで終わりではなかろう?」


 頭を上げ見下ろすように言ってみせるルナールに応えるように炎の中でヤサカの目が光り、爆炎を切り裂きながら飛びかかる。

 瞬間、ルナールの三本の尾がヤサカの身体を刺し貫いたかに見えたが、光となってヤサカが消え代わりに尾に乗るように姿を現すのは聖槍を持つ戦士ディオンだ。


白雷乱斬バイス・シュレッダー……!」


 呟きと共に素早く振りぬかれた聖槍がルナールの尾の三本を切り飛ばし、それにはルナールも尾を引きながら後ろへと跳び退き人のルナールとの連携へと切り替えディオンに対応する。


「スペル発動フレアカース、ツール使用女帝の羽織……」


 髑髏を象る炎がディオンの周囲から襲いかかるも聖槍の一振りで一掃され、その間にルナールの身体に煌びやかな衣が身に着けられると切られた尾が元に戻りしなやかに揺れた。


 伝説の国盗りの妖狐を前にディオンは微かな手の震えを感じ、それが武者震いと自覚すると聖槍を構えルナールを捉える。


「聖槍オーディン……なるほど、風の噂で聞いた英雄ディオンとはお主か」


「今となってはその名も史実に残るのみ、ここにいるのは故郷を救い次の目標へと走る若きリスナーの一人のアセスだ」


 沈着冷静に、それでいて堂々と答えたディオンが一瞬でルナールの真上へと移動し聖槍を突き刺しに行き、それをルナールが尾を回転させ巻き起こす竜巻で吹き飛ばすが舞台へ戻ったランとリンドウを察して追撃とまではいかず、人のルナールがカードを引き抜きプロテクションを発動し青の膜で身を守った。


 と、ここでディオンがカードへと戻され、入れ替わるように傷を癒やし終えたエルクリッドが前に出てカードを引き抜きアセスを呼ぶ。


「お願いします、スパーダさん!」


 黄金の風を纏いながら金の鎧を纏う幽霊騎士スペクターナイトスパーダが大剣を担いで姿を見せ、舞台を抉るように下から上へと剣を振り抜き強烈な衝撃波をルナールへと放つ。


 プロテクションがあるとはいえかなりの威力と見抜くルナールは前方に水の壁を三枚作り出し、衝撃波がそれらを難なく貫いてからプロテクションへ直撃し膜にヒビを走らせたのを見てふっと笑う。


「英雄の次は亡国の騎士か、愉しませてくれるではないか」


「麗しく怜悧なるお方にそう思っていただけるのは光栄ではありますが、討ち取らせていただきます」


「やれるものならやってみるがいい、このワシを、金狐醒妲きんこせいだつルナールをな」


 ディオンとはまた違う古の英傑にルナールの心が高鳴り、スパーダも力強く踏み込みながら前進し伸ばされる尾を避けながら距離を詰め剣を突き刺しに向かう。

 それを支援すべくラン、リンもそれぞれルナールの背後と真上からと攻め、カード切らせる判断を幻惑させる。


 だがルナールはカードを使うまでもなく息を大きく吸ってから紫の煙を吐き出して周囲へと広げ、それが毒と察しランはすぐに足を止め切り返すもリンドウは空中で避けられない事もありまともに吸ってしまい身体の痺れと共に落下してしまう。

 唯一、霊体故にそうしたものを受け付けないスパーダだけはそのまま攻め、ルナールも最小限の動きで突きを避け前へと出て前足で押し倒すとそのまま爪を立てて鎧を裂く。


「聖槍持つ英雄よ、黒き迅雷を穿き栄光を掴め! いくぜ、迅雷槍士ディオン!」


 再び召喚されたディオンがルナールの頭を狙い聖槍を突き刺しに駆け抜け、すぐに身を翻してルナールは避ける。と、ここでルナールはランとリンドウが消えておりカードへ戻されたのに気づき、そこからエルクリッド達の狙いを察した。


(刃を連ねる如く、代わる代わるワシに対して攻め続けつつも消耗を抑える魂胆か、面白い)


 アセスを召喚する維持魔力、アセスが行動し能力を使う事でも魔力は消耗し撃破されれば大きくリスナーの魔力も相応に失う。

 だが召喚してない状態であればその点は心配しなくても良く、また少しだけではあるが休む間に魔力を回復できる。無論カードを遣わない以上は十分に回復するわけでなく、消耗を抑えつつ継戦力を上げる為の策なのはルナールも察しがつき、エルクリッド達も最初からそのつもりで挑んでいた。


(気づかれたかな。あたしはやられてもいいから無理できるぶん、シェダとリオさんの負担を減らすにはこの方法しかないもんね)


 事前にルナールとの試合形式については説明があったのもあり、そういう作戦でいくのは決めていた事だ。

 だが気づかれたとなればルナールもそれを意識した立ち回りに切り替える可能性もあり、ここからより厳しくなるのは明白である。


 刹那、ディオンが少し下がってから聖槍を短く持って突きの構えを取り、スパーダもルナールが放つ紫の火の玉の雨を避けながら周囲を回るように走り抜け、尾の動きを見てから切りかかりに行き左腕と腹を貫かれながらも前進し続けそのまま右腕で尾の一本を抑え込む。


真・黒雷刺突ブラン・シュバルツ……!」


 ディオンが放つ渾身の突きが舞台を刳りながら黒と白の雷を纏い螺旋状の衝撃波を伴いルナールへと向かう。

 その威力を警戒し離脱しようとするもスパーダに尾の一本を抑えられてるのもあり、舌打ちしつつ自ら尾を千切り間一髪で直撃は避け掠る程度に留める。


 しかし掠るといってもそこは聖槍の力による技、血を流す事なく後ろ足が削り取られルナールは空中での体勢を崩し、そこへスパーダが大剣を投げつけ右前足の付け根部分に突き刺す。


「小癪な……! 我は命ず、墓穴に陥る汝らに注ぎしは無慈悲なる毒華の葬送也……! スペル発動、スターブヴェノム!」


 傷ついて尚詠唱札解術によるスペルを発動し、ディオンとスパーダの足下に穴が空いて落とされると同時に上空から降り注ぐ熱気を持つ液体が注がれ穴を埋めていく。

 ディオンはすぐに穴から脱したもののスパーダはそうはいかずに飲みこまれ、ずぶずぶと音を立てながら金の鎧が溶解される。


 だがルナールはスパーダが鎧を捨てているのを察して着地しつつ上方へ目をやり、霊体の姿を晒し突き立つ剣を取り振り抜こうとするのを尾で縛り阻止しそのまま絞め上げた。


「抜け目のない奴よ。だが、ワシに傷つけた対価は払ってもらうぞ」


 紫の火の玉がいくつも浮かび上がり、一斉にスパーダに向かい霊体を焼き尽くしていく。声を上げまいとスパーダは堪え、その痛みと熱さはエルクリッドにも伝わりよろめきながらもカードを引き抜かせた。


「ありがとスパーダさん……! 霊術スペル発動、エルトゥ・バインド!」


 エルクリッドのカードの発動にルナールが消え行くスパーダを放り捨てて警戒し、次の瞬間に地を破り炎のツタがルナールの身体を絞め上げ抑え込む。


 エルフの力による霊術スペルにルナールは感心しつつも身体を震わせ、身に纏う女帝の羽織が光を帯びると刹那にツタが千切れ拘束が解ける。


 そこへ間髪を入れずディオンがルナールの真下に駆け、無防備となった刹那を逃さずに聖槍を持ちその一撃を放った。

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