納屋
全軒見てきたが、やっぱり四軒目だけ異様だ。思わず戻ってきてしまった。状態が良すぎる。
もう一度入ることにした。
居間を通り、日記のあった広縁へ行く。
奥のほうに扉があることに気づいた。
納屋だ。家と直結するように、後から建てられたのか。それにしてはあまり使われている形跡がない。なんのために建てたのかもわからないくらいだ。
セメントの入った袋と、おそらくそれを均すための器具、バケツ数個。後は塩ビのパイプが十数本。それくらいしか置かれていない。そういえば確かに、三軒目の骨壺の家の水場は使い物にならなかったし、なんとか改修して使えるようにでもしようとした名残だろうか。
納屋の奥にドアがある。多分ここから外に出て、水回りの工事をしようとしたのか。
ドアを開けた。
違った。
村に来た時点では、朽ちた家と生い茂った木々に視界を阻まれていて気づかなかった。しかし納屋の先にあるこの空間は、さっきまでいた廃村の雰囲気とは全く違い、凄く視界が開けているし、日光も程よく当たって明るい。
多分、白いコンクリートで固められた地面が光を反射しているのも明るい理由の一つだ。今まで訪れてきた廃屋の倍ほどの広さで、背にしている納屋以外の三方は、やはり雑木林で囲まれている。そこから小枝、虫、葉っぱがコンクリートの上を滑るように風に吹かれながら横切っていく。
パイプは、水道の工事に使われているわけではなかったらしい。コンクリートの地面から一定間隔でパイプが刺さっている。確かにパイプを地面に突き刺すのは、井戸を埋め立てたときの空気抜きのためだと聞いたことはある。
しかし井戸の埋め立てにしてはパイプが多すぎる。等間隔に刺さったパイプは横に七本、それが七列。計四十九本がコンクリートの地面から伸びている。
更にそのパイプ全部に二枚の紙垂が付いていて、多分パイプを幣串とした御幣なのだろうとは思う。
供え物?
それともお祓い?
どっちにしても、そこから先に足を踏み入れる気にならなかった。何も見なかったことにして納屋に戻った。
ドアを閉める寸前で、鈴の音がした。
何も聞かなかったことにした。
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