第50話 みんなでしたら楽しいですよっ♪
翌日、快晴の空の下、僕たち三人は洗濯物を干しに庭に出た。
物干しロープには、昨夜の激闘の舞台となったベッドシーツと、二着のメイド服が風に揺れている。
「はぁ……。信じらんない」
エクレールが濡れたシーツを広げながら、呆れたようにつぶやく。
「どんだけ汚せば気が済むのよ。あんたこそケダモノよ、ケダモノ」
「ごめん……正直自分でもびっくりしたよ」
ゆうべは三人での解呪が刺激的すぎて、ついやりすぎてしまった。
回数で言うと、過去最高かもしれない……。
「え~? でもエルお姉ちゃんもいっぱい楽しんでたよ。『ご主人様、大好き』とか言ってぎゅー、ってしてたし」
「ふきゃああああっ! そういうの言わないの! あれは呪いのせいよ、全部呪いのせいっ!」
尻尾の毛を逆立たせて叫ぶエクレール。
「そ、それよりトルテ、体は大丈夫? どこか痛くない?」
昨夜は三人で盛り上がった勢いのまま彼女の初体験まで済ませてしまった。
「はいっ! ご主人様のこと大好きですから、へっちゃらですよ!」
トルテは満面の笑みで即答すると、「次の洗濯物、取ってきます!」と家の中へ走っていった。
僕は遠ざかるトルテの背中を見ながら、ふと胸の中にチクリとした痛みが走る。
僕の表情の変化に気づいたのか、エクレールが怪訝そうに眉を寄せた。
「どうしたのよ、テオ? 辛気臭い顔して」
「あ、うん。今さらだけど……ちょっと罪悪感があるんだ」
「罪悪感?」
「トルテの好意は、睡眠魔法の副作用なんだよね? 『目覚めて最初に見た男を好きになる』っていう。解呪のためとはいえ、それに便乗して初めてまで奪っちゃって……よかったのかなって」
トルテのことは心から大切に思っている。
でも彼女の好意も忠誠心も、魔法によって刷り込まれたものにすぎない。
それに応えることが、本当にトルテのためなんだろうか――そう思わずにいられない。
僕の言葉を聞いて、エクレールはバツが悪そうに視線をそらした。
「……あー、そのことなんだけど。ごめん、言ってなかった」
「え?」
「トルテが目覚めた後、アタシ、魔法をかけた魔術師さんのところにそのことを報告しにいったの。その時、副作用について詳しく聞いたのよ」
エクレールは、ポリポリと頬をかきながら言った。
「たしかに『目にした異性を好きになる』効果はある。……でもね、その効果は長くて三日くらいで自然に切れるんだって」
「へっ?」
僕は間の抜けた声を出した。
「み、三日? でも、トルテが目覚めてからもう……」
「入院期間を入れたら、とっくに一週間は経ってるわね」
「ってことは……」
「そう。もうとっくの昔に、トルテから魔法の副作用なんて消えてるってこと」
それなら、今の彼女は……。
「じゃあ、なんでトルテはまだ僕のことを『ご主人様』って呼んで慕ってくれてるの?」
「そ、それは……」
エクレールはなぜか言いにくそうな様子で口ごもると、
「と、とりあえず、次からトルテの解呪をするときは、アタシも呼びなさいよね」
「いや、答えになってないし……っていうか、これからも三人でしたいの?」
「し、したいっていうか、そ、その、トルテと二人っきりにさせるのは、なんていうか……」
「トルテは三人でしたいですっ!」
「わあっ!」
いつの間にか戻ってきていたトルテが、にょっきり顔を出してきた。
「みんなでするの、とっても楽しかったですから! これから毎日したいですっ♪」
「あ、あのね、トルテ。今のうちに教えておくけど、その感覚、普通じゃないからね?」
「でも、ご飯も遊びも、みんなでしたら楽しいですよっ♪ ミルお姉ちゃんが戻ってきたら、四人でしましょうっ!」
屈託ない笑顔でとんでもないことを言い出すトルテ。
やばい、真っ直ぐに道を踏み外しつつあるよ、この子……
「ちょっとテオ、どうするのよ……」
「ま、まあなんとかなるんじゃないかな?」
「あのねぇ……」
呆れ顔のエクレールに、空笑いを漏らすしかない。
青空の下、風に揺れるメイド服を見ながら、僕はこれからの騒がしくも、楽しい生活を予感した。
けれど――帰ってきたミルフィさんが、あんなことになっているなんて。
この時の僕たちには、知るよしもなかったのだ。
――――――――――――――
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
これにて、第3章トルテ編も完結となります。
今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
トルテの無邪気でえっちな姿(とエクレールの巻き込まれっぷり)は楽しんでいただけたでしょうか?
次話から第4章が始まりますが、ここで皆さまに【ぜひお願い】があります!
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このどれかひとつでも、もちろん全部でも、いただけたらとっても嬉しいです!
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本作につきまして、カクヨム運営様のガイドラインに則り、一部の描写をマイルドに修正いたしました。
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※もちろん18歳未満の方は読んじゃダメですよ!
それでは、第4章も引き続きよろしくお願いいたします!
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