第3話 練習時間

 上級生チームとの紅白戦。


 そのスケジュールを宣言した後、坂石は溜息をついた。


「個人的にはリーグ戦が開幕して早々にわざわざメンバーを二つに分けて余計なパワーを使わせるようなことをしたくはないんだが、OBのこともあるし広報的なこともある。そんなものだと割り切ってくれ」



 チームとしては、学年別の紅白戦をやる意義は全くないと言って良い。


 そんなことをするくらいなら、合同練習を多めに組んで早くなじませた方が良い。


 年代別の紅白戦などをすることで変な対抗意識を持たれても困る。



 しかし、今年、有望な選手を一気に連れてきたことで大稲田の評判は上がっている。「2、3年のうちに天皇杯でも優勝できるのではないか」という声すらあるほどだ。


 OBの期待も高いし、世間も期待している。


 大稲田というチームのこともあるが、近年の成績は別として知名度があるため大学サッカーを盛り上げなければならない立場でもある。


 有名メンバーが沢山入学したという話題が新鮮なうちに新しいネタを提供して、関心を高めたい。


「……というわけだ」

「それは分かりました。1年の練習メニューや時間についてはどうすればいいんですか?」


 紅白戦の意義は理解したが、どのようにして練習するかという基本的な話がまだ出て来ていない。


 ゆえに後田が当然の質問を坂石に投げかける。


「後でチームの週のスケジュールを渡すが、フィジカル練習やサーキット練習などグラウンドを使わない時は、グラウンドを使ってもらっていい。その逆ならジムや公園を使うのがいいだろう。メニューなどの設定は、必要とあれば2年か3年のトレーナーに任せても良いし、1年でやってもらっても良い」

「それなら、雄大がやればいいんじゃないか?」


 チームを誰が作るか。


 この点に関してはすぐに後田の名前が出て、全員が同意した。



 後田雄大は、見た目からも分かるように選手としてはたいしたことがなかった。


 本人もそのことを自覚しており、高踏高校では天宮陽人とともにコーチの方に回り、チーム作りに携わっていた。そこで全国制覇や世界制覇の経験もある。


 この点では明らかに大稲田のメンバーに勝っている。


「そうだな。その方が良いと思う」


 坂石もそう想定していたようだが、チーム面以外にも。


「その方が、より話題になるわけだし」


 と、依然として話題性の部分も気にしているようだ。



 入学式早々に、1週間半後の紅白戦の日程が決まり、1年チームは自分達で練習をしていくことも決まった。


「分からないことがあれば、俺でも上級生のスタッフでもいいので聞いてくれ」


 坂石はそう言うと、グラウンドの方に戻っていった。


 1年生達が場に残される。


「……予想以上に放任主義だけど、まあ、ウチらに関しては放任主義で育ったようなものだから、これもありかな」


 高踏のメンバー達が言う。


「ただ、グラウンドの使用時間が限られているうえに18人だとミニゲームになってしまうな……」


 幸浦を除く1年生達は既に顔合わせはしているから、誰がどういう選手かということを知っている。ただ、実際に一緒に練習したことはない。


 互いの試合中の動きや癖といったものは一緒に練習しなければ分からないが、10日程度で練習時間も相当限られる。



 まず、グラウンドを使える時間を確認した。


 大稲田大学の場合、グラウンドを使うのは大学サッカー部だけではなく、社会人チームも使用している。そのため、使用可能時間はかなり限られてくる。


 1年となると、必須教養科目も多く、それぞれ学部が違う中で時間を合わせるのも難しい。


「使えるのは金曜日と日曜日のみか」


 リーグ戦が土曜日にあるため、前日とその翌日はグラウンドを使った練習は行われない。翌週火曜日の夕方早い時間も一応使えるが、この時間だと全員が揃わない。


「さすがにこの3回だけでチーム戦術するというのは無理だな。もちろん、やらないわけにもいかないが」


 後田が溜息をつくと、陸平も苦笑する。


「親善試合をやる代表チーム並に厳しいねぇ」

「……そして、この状況だとチームの軸足をどこに置くかも考えないといけない」


 後田が真剣に考えるところに、幸浦がけげんな顔を向ける。


「軸足?」


「自分達の経験のみ話していて申し訳ないが、俺達の高校は田舎の山の中だったから、グラウンドは4面使っていた」


 これだけあると、各学年で練習をするといったこともできる。


「更に監督も色々ネジが飛んでいる人間だったから、とてつもなく奇抜な練習をしていた。そうした練習を通じて全員がどんな動きをすべきか、ということを骨の髄まで叩き込まれていた。その結果として、ハイプレスを凌駕したオールコートプレスが実現できていたが」

「あと、追加するなら、ポジション無用のカオス布陣というのもあったぞ」


 高踏以外の選手達から苦笑交じりの指摘が入る。


「プレーごとにポジションをローテーションするとか、フォーメーションが回転しながらプレッシングに行くとか意味不明のことばかりやっていたからな」

「うん。まあ、そうなんだが……。それはあくまで恵まれた環境あってのことで」


 全体練習としてグラウンドが使えるのが2回半程度となれば、そうした理解を深めることは難しい。


「……となると、極めて基本的な路線……まずは守備から入るべきなのか、という話になる」



オマケ

大稲田大学一年メンバー:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/822139836700189461

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