第2話 だ、男性が人口の3%!?



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 妙に疲れている気がする。コウヤは念の鍛錬で、体の疲れが取れていないのだろうと納得していた。




「……どうかした?」



 彼が朝食を作り終えて振り返ると、顔を真っ赤にしたチグサが立っていた。



「いや。別に……」



 牛乳をコップに注ぎながら、口元がにやけている。チグサは数時間前までぶっ通しでコウヤと性行為を楽しんでいた。その所為で、まだフワフワとした浮足立つ気持ちが抑えられていない様子である。




「そっか」



 何か良い事でもあったのかと、コウヤは思いながら料理を皿に盛りつけていた。後ろでソワソワしているチグサに、彼は「えっと……、何?」と困った様に笑う。



「…………っ!」



 挙動不審気味な自分に気づき、「いや、その……。念はちゃんと鍛えられたのかなって……」チグサは適当に言い訳して逃げようとした。




 手を引っ張られ、「――――ッ!」チグサはコウヤに抱き締められる。「な、何を、してるの?」赤面し、彼女は動揺する。




 何の悪びれもない表情。コウヤは「いや。こうした方が、念の成長を感じやすいかなって思うんだけど……」と不思議そうに首を傾げた。




 チグサは急激に鼓動が早まり、発情しているのを感じる。だが彼の体を抱き締め返し、「うん……。まぁ、そうだよね……」と目を伏せた。




 朝の独特な静けさを感じつつ、好きな人と抱き締め合う。幸せ過ぎて現実感が湧かず、チグサは夢でも見ている様な感覚だった。




「二日目なのに、もう結構強いよね?」



 コウヤが言いながら、彼女の両肩を掴んで離した。



「え? あ……、うん……」



 息を乱し、発情で体が火照る。気が付くとチグサは「…………」コウヤの頭を両手で抱えてキスしていた。




 理性が働かず、舌を絡める。しかし――「…………ッ!」コウヤに肩を掴まれ引き剝がされてしまい、彼女は「あ……」と戸惑う。




 そして直ぐにハッと冷静さを多少取り戻す。散々寝ているコウヤにキスをした所為で、何の違和感もなくキスしてしまった。チグサは恐る恐る「えっと……。兄さん……」と、目を泳がせる。




「ご飯を食べてから、鍛錬しようよ」



 何も気にしていない様子で、コウヤは歩きテーブルに皿を置き始めた。



「…………本当に、さっきからどうしたの?」



 コウヤは目を細め、心配そうに尋ねた。「だ、大丈夫……」と短く答え、目を伏せながら赤面して席に着いた。




 彼が何も気にしていない様子で、ホッと胸をなでおろしながら、「…………いきなりキスされて嫌じゃなかった?」と、チグサは尋ねる。




「……別に?」



 あっけらかんとした答え。コウヤは珈琲の入ったコップに口を付け、片手でリモコンを操作していた。



『大咲坂未さんの逮捕について、どう思いますか?』



『母親が息子を襲い、子作りしていた。言うまでもありませんが、おぞましい事件です』



『血縁者というだけでも社会規範に反します。その上、強姦に及ぶとは……』



『男性は人口の3%な上、性欲が少ない。大半の女性が恋愛できず、一生を終えます。それは仕方ないと割り切って生きなきゃ駄目ですよ』




『母親が息子を襲うだけではなく、兄妹や姉弟で強姦も多発しています。少しずつ減る所か年々増加傾向。これは専門家からの視点で、どう見ていますか?』




 テレビで専門家や芸能人が真剣に喋っていた。



 それを聞きながら「へぇ……。恐ろしいな……」と何となく、コウヤは頬を掻く。チグサは「…………」今になり、冷や水を浴びせられた気分に陥っていた。




 自分が昨日やっていた事は、重罪なのだと今さら焦り始めた。焼き魚を食べていた手が止まり、味がしなくなる。チグサは「兄さんって、あんまり異性と触れ合うの、気にしないよね?」箸の手を止め、目を伏せる。




「そうだね。今は何とも思わないよ」



 今の世界の過去をよく知らないコウヤは、無難に答えた。



「仮に……、だけど。強姦されても……、傷つかない……?」



 甘い希望を抱きつつ、チグサはコウヤの顔を見た。



 彼が苦笑いして、「そ、そりゃあ傷つくよ……」と言う。「…………そっか。……そう、だよね」あからさまに落ち込んだ様子のチグサ。




 彼女は自分の感情を隠すほど余裕がないらしい。客観視できず、肩を落として、悲しそうに食事を再開していた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る