第6話ミラは受験生
高位貴族の令嬢ミラは本来、家庭教師を招いて教育を受けるのが通例だった。
公爵令嬢の彼女の家は壮麗な邸宅で広大な庭園には美しい花々が咲き誇り、噴水が静かに水を舞い上げていた。
彼女は、家庭教師とのマンツーマンでは自分の能力を隠しきれないと判断した。
そこで学院への入学を希望する。
本音は学院生活を楽しみたいだけであった。
「ミラ様、今日は何を学びましょうか?」
家庭教師が微笑みながら尋ねる。
「何でもいいわ」
とミラは答える。
家庭教師が教えるレベルの内容は、すでにミラには不要なものになっていた。
受験に向けて家庭教師が強化カリキュラムを用意するが、ミラにはそれさえ無用であった。
彼女は授業の内容を簡単に理解し、時には教師の間違いを指摘して訂正することさえあった。
「あなたは、私の授業など受けなくても合格間違いなしでしょう」家庭教師は驚嘆の声を漏らした。
ミラは家庭教師にミラの実力を口止めする。
「どうかこのことは、ご内密に…」
家庭教師は驚きながらもミラの要望を受け入れ彼女の秘密を守ることを誓った。
その口止めの報酬として、家庭教師の授業料を2倍にすることを約束した。さらにミラが学院入学した後は、ミラの弟の家庭教師へ推薦することで、家庭教師の働き口を確保することも含まれていた。
家庭教師はミラのはからいに感謝する。
「どうか、学院での生活を存分に楽しんでくださいませ」
家庭教師は微笑んだ。
ミラは、学院での新しい生活に期待を膨らませながら、受験日を待つのだった。
受験日当日。
清々しい朝、青空が広がり、ミラは華美になりすぎない清楚なドレスに身を包み、堂々と試験会場に向かった。彼女の姿はひときわ目立ち、その美しさと気品は誰もが振り返るほどだった。
ミラが試験会場に入ると、小さなどよめきが起こった。「あれって、確か公爵家の…」彼女は美貌と優れた才能の持ち主との噂で有名人だった。しかし、その才能を正しく知る者はいない。大概は尾ひれのついた噂程度の認識でしかなかった。もっとも彼女場合、彼女の真の能力は尾ひれのついた噂さえ遥かに超えていた。
「上位貴族なんか、自分の身分を才能だと勘違いしてるやつばかり…」
呟く声が耳に届いた。ミラは微笑を浮かべ、無関心を装った。
試験の問題を見て困惑した。
「簡単すぎる…貴族学院の試験は難関と聞いていたのに…」
ミラは心の中で苦笑しながらも、適度に手を抜くことを決意した。チート能力のせいで全問正解してしまう恐れがあったため、彼女はぶつぶつと呟きながら回答していった。
「この能力、転生前に欲しかったのに…」
貴族学院が下位貴族の子弟が中心なのは、高位貴族が家庭教師を招いて教育を受けることが一般的だからである。
しかし、それは財力だけが理由ではない。
もしも難関である貴族学院の試験を受けて落ちたら高位貴族のメンツが潰れるためである。
一方で、その実力でより高い地位を目指すのが下位貴族たちである。
故に高位貴族のミラの受験は異例であり、中には
「高位貴族のミラが受験に落ちたら笑ってやろう」と言う輩も存在していた。
ミラは試験を終え、会場を後にするとき、一瞬だけ背筋を伸ばし、冷たい視線を意識した。
しかし、彼女の心は揺るがなかった。
「私がここにいるのは、自分のため。彼らのためじゃない」
心の中でつぶやきながら、新たな学院生活への期待を胸に秘めたのだった。
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