第5話その名はゼクス

ミラはふと胸に見覚えのあるペンダントがあることに気づいた。これも夢ではないらしい。彼女はそのペンダントに触れてみる。ペンダントは古びた銀の装飾が施されており、中央には不思議な光を放つ青い宝石が埋め込まれている。


「断っておくが、興味本位では、使わないほうがいい」


突然、頭の中に声が響いた。その声は低く、落ち着いたトーンだったが、どこか威圧感があった。


「だれ!どこにいるの?」ミラは驚いて辺りをキョロキョロ見回した。広い部屋には誰もいない。


「私は、君の中にいる」


「…宇宙人さん?」ミラは疑問の声を上げた。まさかと思ったが、その可能性しか考えられなかった。


「その通りだ」


「どうして…?」ミラは戸惑いを隠せず、声を潜めて尋ねた。


「君の生命を救うため、一心同体となったからだ。わかりやすく言えば一つの命を二人で共有しているのだ」


「そんなシェアハウスじゃあるまいし…」ミラは苦笑した。冗談のような話だが、真剣な声に嘘はなさそうだった。


「あれ?こっちに転生したのに、ついてきたの?」ミラは半信半疑のまま再びペンダントに触れた。ペンダントの表面は冷たく、指先に微かに震えるような感触が伝わってきた。


「うむ、魂が融合しているからな」


「はぁ?で?これを使うとどうなるの?」ミラは指先でペンダントをそっと撫でた。


「君の体と私の体が入れ替わる」


「体が?そうなると何が起きるの?」ミラはその言葉に驚き、再びペンダントに目を向けた。


「私のデフォルトのサイズは、君の知る単位で説明すると40メートルだ」


「え?」ミラは目を丸くし、口をぽかんと開けた。


「つまりこの屋敷の天井を突き破る」


「ほえっ?」ミラは信じられないように天井を見上げた。高い天井でも、40メートルの巨体には到底及ばない。


「必要のない時は使わないことだ」


「ところで、私が転生して、この世界で生まれ、この年に成長する今までも、ずっと私の中にいたわけよね?当然。」


「一心同体だからな」


「その間に何もしてないわよね」ミラは念押しするように尋ねた。


「無論だ、転生以前の記憶が蘇った今日まで何もしてなし、お風呂やトイレや着替えなどを監視したりしてない」


「ところで宇宙人さん、あなた、名前はないの?宇宙人さんと呼ぶのもどうかと思って」


「我が名はゼクス」


「そう。よろしくゼクス」ミラはゼクスの名前を繰り返し、自分の中にもう一つの存在がいることを改めて実感した。


ゼクスは、ミラのプライバシーには踏み込まないと言って、普段、自らミラに話しかけることはない。むしろ、ミラのほうが、自身の中の友人に話しかけることが多い。


「私に話しかけるときは、声を出す必要はない。頭の中で呼びかけるだけでいい。声を出して話しかけると周りから不審に思われる可能性が高い」とゼクスが言ったとき、ミラはなるほどと思った。


「あっ!」ミラは突然声を上げた。「ゼクス、もっと早く教えてよ~」彼女はすでにその失敗を何度か経験していた。何度か友人や家族の前でうっかり声を出して話しかけてしまい、奇妙な目で見られたことがあったからだ。


ミラは深く息を吐き、新しい生活の始まりを実感しつつ、ゼクスとの奇妙な共存生活がどのようになるのか、胸に少しの不安と期待を抱いた。彼女は窓の外を眺めながら、この新たなすに向けて心を準備するのだった。庭には色とりどりの花が咲き誇り、風がやさしく吹き抜けていた。ミラの心にも新しい風が吹き込むのを感じた。

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